「毎月の積立が家計を圧迫している気がする」「食費を削ってまで続けるべきなのだろうか」。NISAを続けながら、こうした迷いを抱える人は少なくありません。
金融庁の調査では、2025年12月末のNISA口座数は2,821万口座に達しました。累計買付額は71兆円で、2年でほぼ倍増しています。利用が広がる一方、生活費を切り詰めて投資に回す「NISA貧乏」が国会でも取り上げられました。将来への備えのつもりが、今の暮らしを痩せさせているのではないかと不安になる場面もあるはずです。
筆者としては、無駄な支出を省いて資産形成を進める姿勢は、評価すべきと考えています。NISA貧乏という言葉はネガティブに捉えられがちですが、嘲笑の対象ではありません。
本記事では、NISA貧乏の定義と起きる原因、自分が該当するか確かめるサインを詳しく解説します。さらに、公的な統計から見た実態と、投資額を決めるときの具体的な目安も紹介します。
NISA貧乏とは投資を優先して生活が苦しくなる状態
NISA貧乏は、投資を優先しすぎて日々の生活が苦しくなる状態を指します。SNSから広まり、2026年には国会でも話題になりました。預貯金が薄いまま積立を増やす使い方が問題であり、NISAという制度自体に欠陥があるわけではありません。
言葉が広まった背景
「NISA貧乏」はSNSで生まれ、国会答弁をきっかけに広く知られた言葉です。新NISAが始まった2024年以降、SNSでは積立額や資産額を公開する投稿が増えました。「生涯投資枠1800万円を早く埋めるほど得」という主張も目立ちます。
周囲と比べて焦り、生活費を削って投資する若年層の姿が話題になりました。2026年3月には片山さつき財務・金融担当相が国会で「ショックを受けた」と答弁します。個人の家計の悩みが、制度と金融教育を問う議論へ発展しました。
貯蓄がないまま投資に回す状態を指す
NISA貧乏の正体は、預貯金が乏しいまま投資を続ける状態です。生活防衛資金を確保する前に、積立額だけを増やしてしまうためです。生活防衛資金とは、急な出費に備えて現金で持つお金を指します。目安は生活費の3〜6か月分とされます。
貯蓄が足りないと、家電の故障や転職時に投資を解約して穴埋めしがちです。値下がり中に売れば損が確定し、非課税の利点も生かせません。無理のない投資額は、収入や家族構成によって変わります。
制度そのものに問題があるわけではない
NISA貧乏を招くのは制度ではなく、枠の使い方です。金融庁が示す年間投資枠360万円と生涯投資枠1800万円は、上限であって目標ではありません。非課税とは、運用で得た利益に税金がかからない仕組みを指します。
2024年からの新NISAは非課税で保有できる期間が無期限になりました。枠を使い切らない年があっても不利にはなりません。急いで枠を埋める必要はなく、収入が増えた時点で積立額を見直す進め方も選べます。制度は資産形成を支える土台で、生活を犠牲にする使い方だけが家計を圧迫します。
NISA貧乏が起きる3つの原因
NISA貧乏の背景には、3つの要因が重なっています。老後資金への不安、SNSで見える他人の投資額、非課税枠を埋める行動の目的化です。3つとも真面目に将来へ備える人ほど陥りやすく、意志の弱さが原因ではありません。
老後資金への強い不安
NISA貧乏の出発点は、老後資金への強い不安です。金融経済教育推進機構の調査が実態を示しています。20歳代の単身世帯では、金融資産の保有目的に「老後の生活資金」を挙げた人が40.3%でした。2016年は24.4%で、9年で16ポイント伸びています。
背景には2019年の金融庁報告書があります。高齢夫婦の無職世帯で毎月5万円の赤字が続けば、30年で2000万円が必要という試算です。将来へ備えたい気持ちは自然です。ただ不安が強いほど、今の暮らしを削る投資額に傾きます。
SNSで他人の投資額と比べてしまう
SNSは、他人の投資額が目に入る場所です。金融経済教育推進機構の金融リテラシー調査では、周囲に合わせて動く「横並び行動バイアス」が18〜29歳で最も強く出ました。職場や家庭の様子に加え、ネット上の情報にも左右されやすい世代です。
一方で金融経済教育を受けた人は全体の8.7%にとどまります。判断の物差しが育たないまま、他人の投資額が基準になりがちです。SNSに並ぶのは成功した投資の話が中心で、生活を削った裏側までは見えません。収入も家族構成も人それぞれで、比べる意味は薄いといえます。
非課税枠を埋めることが目的になる
新NISAには、年間360万円という投資枠があります。内訳はつみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円です。生涯で非課税にできる金額は1800万円が上限です。使わなかった年間枠は翌年へ繰り越せません。
そのため「今年の枠を使い切らないと損」という感覚が生まれます。SNSでも「年間枠を埋めた」という投稿が目立ちます。枠は上限であって、達成すべき目標ではありません。
NISA貧乏のサインを家計から見つける
NISA貧乏の兆しは、家計簿と毎月の行動に表れます。急な出費に預貯金で対応できるか、食費や交際費を削っていないか、積立を止めても落ち着いていられるか。3つの視点が、家計を点検するときの目印になります。
急な出費に貯蓄で対応できない
最初のサインは、急な出費を預貯金でまかなえない状態です。生活防衛資金とは、病気や失業に備えて手元に置く預貯金を指します。備えが薄い家計は、収入が途切れた時点で立ち行かなくなります。
金融広報中央委員会の調査では、20歳代の単身世帯の42.1%が金融資産を保有していませんでした。家電の故障で3万円が必要になり、分割払いに頼るなら黄色信号です。貯蓄が家計のクッションとして働いていない状態です。積立を続けても預貯金が増えないなら、投資額が収入に見合っていない可能性があります。
食費や交際費を削って積立を続けている
2つ目のサインは、食費や交際費を削って積立額を保っている状態です。節約そのものは有効な手段です。ただし昼食代を毎日500円に抑えたり、友人の誘いを断り続けたりするなら、投資額が生活を圧迫しています。
報道によると、20代がNISAに回す月々の平均額は3万4432円でした。18〜29歳で投資信託を買った経験のある人は28.7%まで増えています。計画して減らす支出と、削らないと家計が回らない支出は別ものです。後者が続くなら、家計の優先順位を見直す時期に来ています。
投資をやめると不安になる
3つ目のサインは、積立を止めると気持ちが落ち着かない状態です。資産の増減が気になり、1日に何度も評価額を確認する人もいます。野村アセットマネジメントの調査では、つみたて投資枠の利用者の1割前後がすでに売却していました。
理由の一つは値下がりへの不安です。リスク許容度とは、損失をどこまで受け入れられるかの幅を指します。長期で持つ前提の資金でも、生活に余裕がないと下落局面で判断が揺れます。投資を続ける安心感が暮らしの安心感を上回っているなら、家計を見直す段階です。
データで見るNISA貧乏の実態
NISA貧乏という言葉は広く話題になりましたが、統計をたどると話の大きさと実際のデータにはずれがあります。口座数の伸びと、家計が投資で圧迫されているかどうかは別の話です。公的な調査をもとに実態を整理します。
NISA口座は2800万を超えた
NISAの利用者は短期間で大きく増えました。金融庁の調査では、2025年12月末のNISA口座数は2,821万口座です。累計買付額は71兆円に達し、2027年末までの政府目標56兆円を前倒しで超えました。直近3年の推移を並べます。
| 時点 | 口座数 | 累計買付額 |
|---|---|---|
| 2023年12月末 | 2,125万口座 | 35兆円 |
| 2024年12月末 | 2,559万口座 | 53兆円 |
| 2025年12月末 | 2,821万口座 | 71兆円 |
買付額は2年でほぼ2倍です。数字の勢いが「NISA貧乏」という話題を広げた一因といえます。
全体の傾向としては確認されていない
話題の大きさに比べ、家計全体が投資で苦しくなっている様子は統計に表れていません。第一生命経済研究所は、若年層の投資額を年代別に集計しています。つみたて投資枠で年間20万円未満の人は、20代で51.5%、30代で43.7%です。月に直すと1万7千円未満の水準になります。
同研究所は、毎月多額の投資で生活が圧迫されている層は若年層の一般的な姿とは言い難いと述べています。2024年のNISA利用者では、年内に一度も買い付けのない口座が約3割ありました。NISA口座を持つ30代も3人に1人ほどで、投資をする人は今も少数派です。
一部の若年層に偏って起きている
全体では確認されなくても、負担が重く出る層はいます。有価証券を持つ世帯の割合は、20歳代で3.8%から30.1%に伸びました。30歳代も8.4%から41.8%に上がっています。いずれも2016年と2025年の比較です。
一方で20〜30代は、収入も金融資産も他の年代より少なめです。同じ月3万円の積み立てでも、家計に占める重さは変わります。無理が出るのは、収入に対して投資額が大きい一部の人です。
NISA貧乏を恐れずに資産形成を続けたい理由
NISA貧乏という言葉には、投資そのものを危ないものに見せる力があります。ただ、資産形成に取り組む人が増えた流れは歓迎したいところです。無理のない範囲で続ければ、家計は少しずつ強くなります。言葉に萎縮する必要はありません。
資産形成に取り組む人が増えたのは前向きな変化
資産形成に取り組む人が増えた流れは、歓迎してよい変化だと考えています。日本の家計は長く預貯金に偏ってきました。家計金融資産とは、家計が持つ預貯金や株式などの合計を指します。
日本銀行が資金の流れをまとめた資金循環統計では、2025年3月末に2,184兆円でした。うち現金・預金が51.0%を占めます。米国の11.5%、ユーロエリアの31.8%と比べても高い水準です。
政府も「成長と資産所得の好循環」を掲げ、投資への流れを後押ししてきました。将来に備える人が増えた事実は、前向きな一歩だと感じます。
投資の習慣が家計を洗練させる
投資を始めると、家計の無駄が自然と見えてきます。毎月の積立額を決める段階で、収入と支出を並べて確認するからです。使っていない動画配信の契約や割高な通信費が見つかるかもしれません。固定費を一度見直せば、効果は翌月以降も続きます。
金融経済教育推進機構の金融リテラシー調査にも裏づけがあります。正答率が高い人には、家計管理がしっかりしているという特徴が見られました。株式に投資する人の割合も、低リテラシー層15.0%に対し高リテラシー層は59.3%でした。
投資の習慣は、生活費の使い方を整えてくれます。無理のない金額であれば、続けるほど家計は洗練されていきます。
NISA貧乏を避ける家計の整え方
NISA貧乏を防ぐ鍵は、投資を始める前の家計づくりにあります。まず生活費の数か月分を預貯金で確保します。次に手元の資金を目的別に3つへ分けます。投資額は収入に対する割合で決め、負担が重ければ毎月の積立額を見直します。
生活費6か月分の預貯金を先に用意する
投資より先に用意したいのが生活防衛資金です。病気や失業で収入が途絶えても暮らしを支えるお金を指します。大和証券は目安として、生活費の3か月〜1年分を挙げています。生活費が月20万円なら60万〜240万円という計算です。会社員なら6か月分の120万円を一つの区切りにすると考えやすくなります。
預貯金で備えがあれば、相場が下がった局面でも保有分を売らずに済みます。半年分が遠く感じるなら、1か月分から積み上げる方法もあります。貯蓄と投資は、どちらか一方ではなく状況に応じて使い分けます。
お金を3つに分けて考える
手元の資金は使う目的で分類すると、投資に回せる金額が見えてきます。大和証券は「お金の色分け」として、次の3分類を示しています。
| 分類 | 役割 | 置き場所の目安 |
|---|---|---|
| そなえるお金 | 当座の生活費と生活防衛資金 | 預貯金 |
| まもるお金 | 教育資金や住宅資金など使う時期が決まった資金 | 預貯金や安定的な運用 |
| ふやすお金 | 当面使う予定のない余裕資金 | 投資 |
NISAに回すのは3番目のふやすお金です。前の2つを確保しないまま積立額を増やすと、家計のバランスが崩れます。分類してみると、投資に回せる金額は思ったより小さいと気づく場合もあります。
投資額は手取りの何割が目安か
投資に回す金額は、収入の10〜20%が一つの目安とされています。手取り25万円なら、毎月2万5000円〜5万円が目安の範囲です。手取りの3割を超える積立を続けると、生活費が圧迫されやすくなります。
ただし適切な金額は収入や家族構成、支出の状況で変わります。割合はあくまで出発点で、毎月の家計簿と照らして調整していきます。判断に迷うときは、金融機関の窓口や専門家へ相談する方法もあります。
積立額はいつでも変更できる
NISAの積立額は、始めた後でも変更できます。毎月5万円が重いなら3万円へ下げれば、家計の余裕は戻ります。手続きは金融機関の画面から数分で終わります。積立を止めても、買った分の運用は続きます。
売却も自由です。売った分の非課税枠は、翌年に簿価(買ったときの金額)の分だけ復活します。苦しいまま我慢するより、無理のない金額へ見直して継続する方が長く投資と付き合えます。
投資と暮らしを両立させNISA貧乏から抜け出す方法
投資は将来の安心を手に入れるための手段です。積立額を増やす行為そのものが目的になると、今の生活が痩せて本末転倒になります。暮らしと投資を両立させる視点を、経験・自分への投資・目的の3点から整理します。
今しかできない経験にもお金を使う
投資額を削ってでも、今の年齢でしか味わえない経験には予算を残しましょう。遠い将来の不確かな利益を優先し、現在の生活の質を犠牲にする状態は本末転倒です。20代の旅行と60代の旅行は、体力も感じ方も別物です。
友人との時間や学びの機会も、後から同じようには買い戻せません。同じ金額でも、使う時期によって得られる価値は変わります。迷ったときは「5年後に振り返って後悔しない使い方か」を基準にしてみてください。月1万円を経験用の予算として先に取り分けると、罪悪感なく楽しめます。
自分に投資して収入を増やす
金融商品への投資だけでなく、自己投資にもお金を使ってほしいと考えています。人脈やスキル、知識は自分が稼ぐ力を高める要因になるためです。厚生労働省の分析でも、自己啓発が仕事の質の向上や収入の増加につながる効果が示されました。
収入が増えれば、投資に回せる金額そのものが大きくなります。月3万円だった積立を、生活を削らずに5万円へ増やせる形です。自己投資が収入を押し上げ、増えた収入が資産形成を加速させる好循環が生まれます。
まずは月3,000円分の学習費を確保し、半年で何を身につけるか決めてみましょう。人的資本、つまり働いて稼ぐ力の成長も、立派な資産形成です。
投資は人生の目的ではなく手段
投資は人生の目的ではなく、安心して暮らすための手段です。第一ライフ資産運用経済研究所は、ファイナンシャル・ウェルビーイングという考え方を示しています。将来の経済面に安心感を持ち、人生を楽しむための選択ができる状態を指す考え方です。
資産額そのものではなく、選択の自由を持てているかが物差しになります。お金を増やす行為が目的になるのは本末転倒です。お金は使って初めて意味を持つ、という事実も忘れずにいたいところです。
手段が目的にすり替わると、暮らしが痩せます。年に一度、「今の積立額は何のためか」を紙に書き出してみてください。目的を答えられない積立は、金額を見直す合図です。
NISA貧乏に関するよくある質問
積立額の変更や途中の売却、相談先など、NISA貧乏の悩みに直結する疑問をまとめました。制度の仕組みを知れば、生活を犠牲にせず投資を続ける判断がしやすくなります。無料で使える公的な相談窓口も紹介します。
Q. 積立額を減らすと非課税の恩恵は小さくなりますか?
減額しても非課税の恩恵は残ります。NISAは運用益が非課税になる仕組みで、投資額の大小で税制上の扱いは変わりません。2024年からの制度では非課税で保有できる期間が無期限になりました。積立を続ける限り、少額でも利益に税金はかかりません。
生活を削って満額を目指すより、続けられる金額に整えるほうが長く運用できます。運用期間が延びれば、複利の効果も働きやすくなります。
Q. NISAで購入した商品は途中で売却できますか?
いつでも売却できます。NISA口座で保有する商品に売却時期の制限はなく、必要なときに現金化できます。売却で得た利益にも税金はかかりません。
さらに2024年からの制度では、売却した分の枠が翌年以降に復活します。非課税保有限度額は簿価残高方式で管理されます。簿価残高方式とは、購入したときの金額で残高を数える方法です。生活費が不足したときの備えとして覚えておくと安心です。ただし手続きや反映日は金融機関ごとに異なるため、口座のある金融機関で確認してください。
Q. 生活が苦しいときは積立をやめてもよいのでしょうか?
生活費の確保を優先してかまいません。積立の停止や減額は、多くの金融機関で手続きできます。苦しい状態のまま続けると、値下がり時に売って損失を確定させかねません。
金融庁の資料では、生活防衛資金の目安を働きながらの場合で3か月から半年分としています。まず預貯金を確保し、家計が落ち着いてから再開する判断で問題ありません。積立をやめても口座は残り、非課税枠は翌年以降も使えます。
Q. 投資の相談はどこにすればよいですか?
無料で使える公的な窓口から始めるのがおすすめです。金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、家計管理やNISAの疑問に答える電話相談を無料で受け付けています。金融機関に属さない立場のため、特定の商品を勧められる心配がありません。
金融庁の金融サービス利用者相談室も、金融商品の一般的な留意点を無料で案内する窓口です。より詳しい家計の設計を望むなら、ファイナンシャルプランナーへの相談も選択肢になります。
投資額を見直して無理なく続けよう
NISA貧乏は、預貯金が薄いまま投資を優先した結果として起こります。統計では全体の傾向として確認されておらず、言葉に萎縮して資産形成をやめる必要はありません。
まず生活費の3〜6か月分を預貯金で確保し、投資は当面使う予定のない資金から回します。積立額はいつでも変更できます。金融商品だけでなく自己投資にもお金を向ければ、収入と資産が同時に育つ好循環が生まれます。今月の家計簿を開く一歩から始めてみてください。
当オフィスでは、従業員向けのFP相談を福利厚生として提供しています。NISA・iDeCo・住宅ローン・老後資金など、社員一人ひとりのお金の不安に中立の立場でお答えします。企業型DCの投資教育もあわせてご相談ください。
サービス内容を見る →