合同会社 柴田人事労務オフィス
Shibata HR & Labor Office LLC.
AI・業務効率化

人事・労務でのAI活用事例|勤怠・採用・問い合わせ対応を効率化する使い方

「AIで人事や労務の仕事を軽くしたいけれど、どの業務から手をつければいいのか分からない」。中小企業の担当者からよく聞く声です。人事・労務には、勤怠の集計や求人票の作成、社内からの問い合わせ対応など、決まった手順を繰り返す作業が数多くあります。こうした定型業務ほど、AIの効果が出やすい領域です。

総務省の令和7年版情報通信白書によると、生成AIの活用方針を定めた企業は2024年度に49.7%となり、前年度の42.7%から上昇しました。約75%の企業が、生成AIは業務効率化や人員不足の解消につながると答えています。期待は数字となって表れ始めています。

本記事では、勤怠管理・採用・問い合わせ対応という3つの現場を中心に、人事・労務でのAI活用事例を具体的に解説します。あわせて導入時の注意点と、中小企業が小さく始める手順、費用を抑える補助金までを紹介します。

人事・労務でAIの活用が広がる背景

人事・労務でAIが使われ始めた理由は、人手不足という構造的な課題と、生成AIの普及が重なった点にあります。とくに定型業務の多い人事・労務は、AIと相性のよい領域です。担当者が数人という中小企業ほど、1人あたりの削減時間が経営に効きます。

人手不足と労働力人口の減少

採用だけで人手を補うのは、年々難しくなっています。労働政策研究・研修機構の推計では、労働力人口は経済が伸びず労働参加が今のままの場合、2022年の約6,902万人から2040年には約6,002万人へ減るとされています。少ない人数でも現場を回す工夫が、どの会社にも求められています。

人事・総務は、他部門の業務を支える役割を担いながら、自部門の作業も抱えます。定型作業をAIに任せられれば、面談や制度設計といった人にしかできない仕事に時間を振り向けられます。

出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)「2023年度版 労働力需給の推計」

生成AIの普及と企業の活用方針

生成AIを業務に取り入れる企業は、着実に増えています。総務省の令和7年版情報通信白書では、活用方針を定めた企業が2024年度に49.7%へ達しました。企業規模別では大企業が約56%、中小企業が約34%です。

差の中心は「禁止」ではなく「未決定」の層にあります。反対しているのではなく、進め方を決めかねている会社が多いということです。まず方針を固めるだけでも、他社との差がつきます。

出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」

定型業務が多い人事・労務との相性

人事・労務は、AIの効果が出やすい定型業務の宝庫です。勤怠の集計、求人票の作成、問い合わせへの一次対応など、手順が決まった作業が毎月繰り返されます。情報処理推進機構(IPA)の調査では、AIを導入した企業の91.6%が業務の効率化や迅速化を効果に挙げました。

人が時間を取られてきた転記や下書きほど、生産性の伸びが大きくなります。まずは削減効果の見えやすい作業から選ぶのが近道です。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント」

勤怠管理・労務でのAI活用事例

勤怠管理や労務は、ルールが明確でデータが数字で残るため、AIを組み込みやすい領域です。シフト作成の自動化、打刻や残業の異常検知、給与計算の下準備などが代表例です。人が最終確認する前提を保てば、担当者の負担を確実に減らせます。

シフト作成の自動化

複雑な勤務条件を組み合わせるシフト作成は、AIが得意とする作業です。必要人数や資格の有無、本人の希望や連続勤務の制限といった条件を読み込み、原案を短時間で作ります。担当者が手作業で埋めていた時間を、確認と微調整に振り向けられます。

とくに小売・飲食・介護など、時間帯ごとに人員配置が変わる職場で効果が出やすくなります。ただし、勤務間インターバルや割増賃金の対象となる時間帯には注意が必要です。AIの原案をそのまま使わず、労働基準法に沿っているかを担当者が確かめます。

残業・打刻異常の検知

AIは、勤怠データの中から気をつけるべき兆候を拾い出せます。残業時間が上限に近づいている従業員や、打刻の抜け・重複といった異常を早めに知らせる使い方です。問題が起きてから対応するのではなく、事前に手を打つ「予防労務」につながります。

長時間労働は、健康リスクと未払い残業の両面で会社の負担になります。数値の変化をAIが監視し、担当者は該当者への声かけや業務配分の見直しに集中できます。

給与計算・集計の下準備

クラウド型の勤怠システムは、打刻データを自動で集計し、残業・深夜・休日の割増を即座に計算します。担当者が電卓や表計算で積み上げていた作業が減り、月末の締め処理が軽くなります。

ただし、給与計算の結果は人が必ず検算します。控除や手当の判断には個別事情が絡むため、AIの出力を確認せずに支給するのは避けます。なお、社会保険や労働保険の手続きの代行は社会保険労務士の独占業務であり、AIはあくまで下準備や集計を担う道具にとどまります。

採用業務でのAI活用事例

採用は、文章作成と大量の情報整理が重なる業務です。求人票やスカウト文の作成、応募書類の整理、面接記録の構造化など、AIが下支えできる場面が多くあります。ただし合否そのものは人が決める前提を崩さないことが欠かせません。

求人票・スカウト文の作成

求人票やスカウトメッセージの下書きは、生成AIが力を発揮する作業です。募集職種の要件や自社の特徴を伝えると、AIが構成の整った原案を短時間で作ります。ゼロから書き起こす負担が減り、複数の媒体向けに文面を出し分ける手間も軽くなります。

大切なのは、AIの原案を土台にして自社の言葉へ直すことです。表現が一般的になりがちなため、実際の職場の魅力や具体的な仕事内容を担当者が書き足します。誇張した条件を載せると、入社後のミスマッチにつながる点にも注意します。

書類選考・スクリーニングの補助

応募書類の整理や要点の抽出も、AIが担える作業です。職務経歴の要約や、募集要件との重なりの洗い出しに使うと、担当者は一次確認の時間を短縮できます。応募が集中する時期ほど、下準備の効果が大きくなります。

一方で、合否の判断そのものをAIに委ねるのは避けます。採用選考は応募者の適性と能力に基づいて行うものであり、本籍や家族構成など本人に責任のない事項で判断してはなりません。AIが学習データの偏りを持ち込む恐れもあるため、選考の最終判断は人が責任を持って下します。

出典:厚生労働省 公正な採用選考特設サイト「採用選考の基本的な考え方」

面接記録の整理と構造化

面接での発言をAIが文字起こしし、要点を整理する使い方も広がっています。担当者は記録に追われず、応募者との対話に集中できます。あとから複数の面接官の評価を突き合わせる際にも、記録がそろっていると議論が早く進みます。

録音や文字起こしを行う場合は、応募者に事前に一言伝えます。記録はあくまで評価の材料であり、点数を付けるのは人だという役割分担を保ちます。

問い合わせ対応・バックオフィスでのAI活用事例

社内外からの問い合わせ対応や書類作業も、AIが得意とする領域です。チャットボットによる一次対応、議事録や文書の下書き、紙書類のデータ化などが代表例です。人は複雑な相談や例外対応に集中でき、対応の待ち時間も短くなります。

社内問い合わせへのチャットボット

「有給は何日残っているか」「年末調整の書類はどこか」といった繰り返しの質問は、チャットボットが答えられます。ある自治体では、1年間で13,364件の質問にAIが回答し、職員の対応時間を大きく削減した事例が報告されています。

社内向けに使えば、人事・総務に集まる定型の問い合わせを減らせます。就業規則や各種手続きの案内をあらかじめ学習させ、答えられない相談だけを担当者に回す形が現実的です。

出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」

議事録・文書の下書き

会議の議事録や社内通知の下書きは、生成AIに任せやすい作業です。録音や要点のメモを渡すと、整った文章の原案が短時間で仕上がります。担当者は内容の確認と修正に集中できます。

就業規則や労使協定など、法的な効力を持つ文書は扱いを分けます。下書きにAIを使うのは構いませんが、最終的な内容は人が確認し、必要に応じて社会保険労務士や弁護士など専門家の確認を受けます。

紙書類のデータ化(AI-OCR)

AI-OCRは、紙の文字をAIが読み取ってデータ化する仕組みです。入社書類や申請書の入力作業を自動化でき、転記ミスも減らせます。書式がそろった定型書類ほど、成果が出やすくなります。

手書きの癖字や非定型の書類では読み取り精度が下がるため、変換後のデータは人が確認します。個人情報を含む書類を扱う際は、保管と閲覧の範囲を絞る運用が欠かせません。

人事・労務でAIを使うときの注意点

人事・労務は、個人情報や評価という繊細な情報を扱う領域です。便利さだけで導入を進めると、情報漏えいや不公平な判断といった問題を招きます。入力してよい情報の線引き、人が最終判断する体制、法令との整合の3点を押さえます。

個人情報・機微情報の入力ルール

AIへの入力は、社外のサーバーに情報を渡す行為にあたります。個人情報保護委員会は2023年6月に、生成AIの利用について注意喚起を出しました。個人情報を含む指示文を入力する際は、決めた利用目的の範囲内かどうかの確認が求められています。

従業員の氏名やマイナンバー、健康情報などの機微な情報は、そのまま入力しないルールを先に決めます。社名や氏名を伏せる、公開情報に限るといった線引きを1枚にまとめ、全社で共有します。

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」

採用・評価は人が最終判断する

採用の合否や人事評価は、人が責任を持って決めます。生成AIは、事実に基づかない内容をもっともらしく作ることがあり、学習データの偏りをそのまま持ち込む恐れもあるためです。国のAI事業者ガイドラインも、責任者の明示と、人による確認の記録を求めています。

AIの役割は、下調べや案出し、記録の整理までにとどめます。判断した人の名前と日付を残すと、あとから経緯をたどれ、応募者や従業員への説明もできます。

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」

労働関係法令との整合を確認する

勤怠や給与にAIを使う場合は、労働基準法など関係法令との整合を確かめます。シフトや残業の管理では、労働時間の上限や割増賃金の計算が正しいかを人が検算します。AIの出力が法令に沿っているとは限らないためです。

また、労働・社会保険の手続き代行や帳簿の作成は、社会保険労務士の独占業務です。AIはこれらの下準備や効率化に使う道具であり、手続きそのものを代行するものではありません。判断に迷う場面は、社会保険労務士に相談すると安心です。

中小企業がAI活用を始める手順

中小企業がAIを取り入れるコツは、大きく始めないことです。1つの業務から小さく試し、費用は補助金で抑え、効果を数字で測って広げます。担当者が兼務でも回る範囲から始めれば、途中で止まりません。

1業務から小さく試す

全社一斉ではなく、1部署の1業務から始めると失敗の傷が浅く済みます。まずは議事録の下書きや問い合わせ対応など、間違えても担当者がその場で直せる作業を選びます。効果が見えた業務から、隣の作業へ広げます。

始める前に、解決したい課題を一文で書けるかを確かめます。「どの作業を、月に何時間減らすのか」を数字で言えないうちは、作業の棚卸しを先に済ませます。

補助金を活用して費用を抑える

AIツールの導入には、公的な補助金を使える場合があります。厚生労働省の業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資を対象とし、勤怠管理システムの導入費用も補助の対象になり得ます。賃金引上げなどの要件を満たすと、費用の一部が補助されます。

IT導入補助金も、ソフトウェアの導入を支援する制度です。対象や要件は年度ごとに変わるため、申請前に最新の公募要領を確認します。補助金の枠組みを使えば、初期費用の負担を軽くしながら試せます。

出典:厚生労働省「業務改善助成金」/中小企業庁「IT導入補助金」

効果を数字で測る

導入したら、効いているかを数字で確かめます。対象業務の作業時間、利用した人数、月額費用、出力の手直しに要した時間の4つが扱いやすい指標です。3か月ほど試し、数字が伸びた業務から広げます。

数字が動かないときは、AIの中身ではなく使い方を見直します。対象業務の選び方や入力の仕方を変えるだけで、成果が出る場合もあります。測って変えてまた測る流れを、年間の業務に組み込みます。

人事・労務のAI活用に関するよくある質問

担当者からは、AIに任せてよい範囲や法令との関係についての質問が多く届きます。ここでは代表的な4つの疑問に、公的な資料をもとに回答します。中小企業での進め方や、個人情報の扱いも取り上げました。

Q. 人事・労務でAIに任せてはいけない業務はありますか?

採用の合否や人事評価など、人の権利に直結する最終判断は任せられません。生成AIには事実と異なる内容を作る弱点があり、学習データの偏りを持ち込む恐れもあるためです。これらは下調べや記録の整理までにとどめ、判断は人が下します。

労働・社会保険の手続き代行のように、法律で資格者の独占業務と定められた仕事も対象外です。AIは下準備に使い、手続き自体は社会保険労務士が担います。

Q. 従業員の個人情報をAIに入力しても大丈夫ですか?

氏名やマイナンバー、健康情報などの機微な情報は、そのまま入力しない運用が基本です。個人情報保護委員会は、生成AIの利用にあたり、個人情報を含む指示文の入力が利用目的の範囲内かを確認するよう求めています。

社名や氏名を伏せる、公開情報に限るといった線引きを先に決め、全社で共有します。判断に迷う情報は入力しないルールにしておくと、事故を防げます。

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」

Q. 社労士の資格がなくても、AIで労務対応を進められますか?

効率化の下準備であれば、資格がなくても進められます。勤怠の集計や書類の下書き、社内問い合わせへの回答準備などは、AIを使った業務効率化の範囲です。

ただし、労働・社会保険の手続き代行や帳簿の作成は社会保険労務士の独占業務です。これらはAIで代行できません。AIは社内の下ごしらえに使い、専門的な手続きは有資格者に依頼する形が安全です。

Q. 中小企業でもAIの人事活用はできますか?

できます。むしろ人数が少ない会社ほど、1人あたりの削減時間が経営に効きます。クラウド型のツールは月額で使えるものが多く、初期投資を抑えて始められます。補助金を使えば、費用の負担をさらに軽くできます。

まずは議事録や問い合わせ対応など、手作業の多い事務から試すのが現実的です。効果を確かめてから、勤怠や採用へ広げていきます。

人事・労務のAIは「下ごしらえ」から始めよう

人事・労務でのAI活用は、勤怠のシフト作成や異常検知、採用の求人票・スカウト作成、問い合わせ対応のチャットボットなど、定型業務との相性がよい領域から効果が出ます。手作業の多い事務ほど、削減時間が大きくなります。

大切なのは、判断はあくまで人が担い、AIは下ごしらえに徹する役割分担です。個人情報の入力ルールを決め、法令との整合を確かめたうえで、1つの業務から小さく試してください。効果を数字で測りながら広げれば、少ない人数でも現場が回る体制に近づきます。

当オフィスでは、中小企業の人事・労務におけるAI活用を、入力ルールの整備や小さく試す業務の選定からご支援しています。「何から始めればいいか分からない」という段階から、勤怠・採用・問い合わせ対応の効率化までお気軽にご相談ください。

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