合同会社 柴田人事労務オフィス
Shibata HR & Labor Office LLC.
人材定着・組織づくり

人材定着率を上げる方法とは?離職1人93.6万円の損失を防ぐ施策

人材定着率を上げる方法とは?離職1人93.6万円の損失を防ぐ施策

厚生労働省の調査によると、大卒新入社員の33.8%が入社3年以内に離職しています。採用と定着の両方を任される中小企業の人事担当者ほど、単発の施策だけでは手詰まりを感じやすいものです。

人材定着は、離職の原因特定から順番に進めれば着実に改善できます。大きな予算がなくても、離職データの分析と対話の仕組みづくりで定着率を高めることは可能です。

本記事では、人材定着を阻む離職の4大原因と、定着率を高める施策の全体像を詳しく解説します。さらに、中小企業でも実践できる4つの実行手順と、施策を形骸化させない注意点も紹介します。

人材定着とは?定着率の計算方法と日本の現状

人材定着とは?定着率の計算方法と日本の現状

定着率は在籍者数から簡単に計算できます。厚生労働省の統計をもとに、日本の離職の現状も数字で確認します。

人材定着(リテンション)の定義

人材定着とは、採用した従業員が辞めずに働き続けている状態です。人事の分野ではリテンション(人材の維持・引き止め)とも呼ばれます。

ポイントは、在籍期間の長さだけを意味しない点です。調査機関のGreat Place To Work Japanは、意欲を持って成長し続けられる状態こそ定着だと説明しています。求人を出しても応募が集まりにくい今、採用した人に長く働いてもらう取り組みは中小企業の重要な経営課題です。

離職を防ぐ守りだけでなく、活躍を後押しする攻めの視点で捉えると理解しやすくなります。

定着率の計算方法

定着率は、次の計算式で求めます。

定着率(%)= 一定期間後の在籍者数 ÷ 期初の入社者数 × 100

例えば4月に10人を採用し、1年後に8人が在籍していれば、定着率は8÷10×100で80%です。集計期間は1年や3年など、目的に応じて設定します。新卒の定着を見るなら入社3年後、全社の傾向を見るなら年度単位が使いやすい区切りです。

逆に、辞めた人の割合を示す指標が離職率です。先の例では2÷10×100で20%となり、定着率と足すと100%になります。同じ条件で毎年計算すると、施策の効果を比較できるでしょう。

日本の離職率・定着率の現状

日本の従業員がどの程度辞めているかは、厚生労働省の統計で確認できます。主な平均値は次の表のとおりです。

指標数値
離職率(2024年・全産業平均)14.2%
大卒の3年以内離職率(2022年3月卒)33.8%
高卒の3年以内離職率(2022年3月卒)37.9%

雇用動向調査によると、2024年の離職率は14.2%で、前年より1.2ポイント低下しました。

一方で、新卒の早期離職は高い水準が続いています。大卒の約3人に1人が、入社3年以内に会社を去っている計算です。自社の定着率を算出したら、まず全国平均との差を確かめてみましょう。平均より離職が多い場合は、次章で扱う原因の分析が急がれます。

人材定着を阻む離職の4大原因

人材定着を阻む離職の4大原因

離職の原因は「給与・評価」「人間関係」「キャリア」「ミスマッチ」の4つに大別できます。厚生労働省の調査では、給与や人間関係への不満が退職理由の上位に入ります。入社前後のギャップによる早期離職も見過ごせません。

給与・評価への不満

給与と評価への不満は、離職原因の中でも見過ごせない要素です。厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、「給料等収入が少なかった」と答えた転職者は男性10.1%、女性8.3%でした。25〜29歳の男性に限ると16.9%へ跳ね上がり、若手ほど給与への不満が強い傾向が読み取れます。

転職者の40.5%は賃金が増えており、社外に出れば収入が上がる状況も退職の追い風です。評価基準が曖昧なままだと、給与水準が同業並みでも不公平感が募り離職につながります。

人間関係と職場環境

職場の人間関係は、女性を中心に離職へ直結しやすい原因です。令和6年雇用動向調査では、「職場の人間関係が好ましくなかった」が女性11.7%、男性9.0%でした。労働時間や休日への不満も女性では12.8%と高く、前年から1.7ポイント上昇しています。

職場環境の問題は数字に表れにくいものの、退職の決断を強く後押しする要因です。人間関係の悩みは面談で語られにくく、退職の申し出で初めて発覚する例が目立ちます。残業時間や部署別の離職数を突き合わせると、問題のある職場が見えてきます。

キャリアと成長実感の不足

キャリアの先行きが見えず成長を実感できない状態は、中堅層の離職を招く原因です。リクルートマネジメントソリューションズの2024年調査では、入社4〜8年目の離職者の58%がキャリア発達重視型でした。入社1〜3年目では不満の解消を重視する型が68%を占め、年次で理由が変わる点が特徴です。

若手は不満で辞め、中堅はキャリアパスの見通しが持てずに辞める構図が浮かびます。同じ業務だけが続き挑戦の機会がないと、意欲の高い社員ほど社外に成長の場を求めます。評価の高い社員の退職が続く場合は、成長機会の不足を疑うサインです。

採用時のミスマッチ

採用時のミスマッチ、つまり入社前の期待と現実のずれは早期離職の引き金になります。エン・ジャパンが2024年に929名へ実施した調査では、87%が入社後にギャップを感じた経験があると回答しました。ギャップを感じた人のうち約7割は、転職を考えたと答えています。

ギャップの上位は「職場の雰囲気」と「仕事内容」で、求人票や面接だけでは伝わりにくい情報です。選考中に仕事の厳しい面を伏せるほど入社後の失望は大きくなり、定着どころか早期退職を招きます。

人材定着がもたらす3つのメリット

人材定着がもたらす3つのメリット

人材定着が進むと、1人あたり平均93.6万円かかる新卒採用費の再発生を防げます。社員の働きがいは生産性とサービス品質を押し上げ、低い離職率は求職者への訴求材料になります。定着への投資は、利益を生む経営戦略なのです。

採用・教育コストの削減

社員が定着すると、採用と教育にかかるコストを大幅に削減できます。就職みらい研究所の「就職白書2020」によると、新卒採用のコストは1人あたり平均93.6万円です。中途採用では103.3万円と、新卒よりさらに高額でした。

退職者が出るたびに、補充の採用費と入社後の教育費が改めて発生します。募集広告費や紹介手数料に加え、研修を担当する社員の人件費も無視できません。年間3人の離職を防げば、新卒換算で280万円を超える支出を抑えられる計算です。

生産性とサービス品質の向上

人材の定着は、生産性とサービス品質の向上に直結します。勤続年数が延びるほど業務のノウハウが社内に蓄積され、後輩の指導や顧客対応の質が安定するためです。働きがいの深さを示す指標に、ワーク・エンゲージメントがあります。

厚生労働省の令和元年版「労働経済の分析」では、エンゲイジメントの高さと労働生産性に正の相関が示されました。退職に伴う引き継ぎや業務の中断も減り、現場の負担が軽くなります。経験を積んだ社員が残る職場ほど、安定した成果を生み出せます。

採用力・企業イメージの向上

定着率の高さは、採用力と企業イメージの向上にも貢献します。求職者は応募前に、離職率や平均勤続年数を安定性の目安として確認しているためです。マイナビの2026年卒大学生就職意識調査によると、企業選択のポイントは「安定している会社」が51.9%で最多でした。

5割を超えたのは調査開始以来初めてで、7年連続の1位でもあります。社員が長く働いている事実は、職場環境の良さを示す説得力のある証拠です。社員の紹介や口コミによる応募も増え、企業ブランドの強化につながります。

離職を防いで人材定着につなげる施策

離職を防いで人材定着につなげる施策

人材定着の施策は、採用・受け入れ、評価・キャリア支援、働き方改善の3段階に分けると整理しやすくなります。入社前の情報開示や月1回の1on1など、中小企業でも短期間で始められる取り組みが中心です。

採用・受け入れ段階の施策

入社前後のギャップは早期離職の引き金になります。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査では、58.4%の事業所が採用前の詳細な説明を定着対策として実施しています。残業時間や仕事の厳しい面も隠さず伝えるRJP(現実的な情報開示)が出発点です。

入社後は、業務や人間関係の立ち上がりを支えるオンボーディングを3か月計画で進めます。年齢の近い先輩が相談役を務めるメンター制度を併用すると、新入社員は悩みを一人で抱え込まずに済みます。

評価・キャリア支援の施策

評価への不満と将来像の見えにくさは、中堅社員の離職に直結します。評価制度は基準と昇給への反映方法を文書で公開し、半期ごとの面談で本人に説明すると納得感が高まります。

昇進や専門職への道筋を示すキャリアパスの明示も欠かせません。厚生労働省の令和5年度能力開発基本調査では、キャリア相談の仕組みを正社員向けに導入する事業所は41.6%にとどまります。年1回のキャリア面談を定例化するだけでも、他社と差がつく支援になります。

働き方・コミュニケーションの施策

働きやすさと日ごろのコミュニケーションが、定着の土台になります。若年層向けの定着対策では、労働時間の短縮や有給休暇の取得奨励を行う事業所が52.9%に上ります。2018年の前回調査より15.1ポイント増え、注目度が高まっています。

テレワークや時差出勤を選べる制度は、育児や介護と両立する社員を支えます。上司と部下が月1回30分対話する1on1の導入企業も7割近くに達しました。定期的な対話で心理的安全性が高まり、不満を小さいうちに解消できます。

中小企業が人材定着を進める4つの手順

中小企業が人材定着を進める4つの手順

人材定着は、現状把握・目標設定・実行と周知・効果測定の4手順で進めると単発で終わりません。予算と人手が限られる中小企業でも、順番を踏めば小さく始めて継続できます。データで課題を絞り込み、改善まで回す流れが継続の鍵です。

現状把握と課題の特定

最初の手順は、離職の現状を数字で把握する作業です。人事担当者が過去2〜3年分の離職率や勤続年数、退職理由を部署別・年代別に集計します。

数字と合わせて、退職者ヒアリングや年1回の従業員サーベイで不満の声も集めましょう。データと生の声をそろえると、「若手が入社2年目で辞めている」など課題が具体的に見えてきます。感覚に頼った判断は施策のずれを生みます。完璧な分析でなくても、現状を数字で見られる状態づくりを優先してください。

優先順位づけと目標設定

課題を洗い出したら、すべてに手を付けず優先順位を決めます。予算と人手が限られる中小企業では、緊急度と重要度の2軸で並べ、影響の大きい1〜2テーマに絞る方法が現実的です。

絞り込んだら「3年以内離職率を20%以下にする」など数値の目標とKPIを設定します。厚生労働省の統計では、大卒新入社員の3年以内離職率は33.8%でした(2022年3月卒)。全国平均と自社のデータを比べると、無理のない水準を決めやすくなります。期限は半年後・1年後など測定できる形にそろえましょう。

施策の実行と社内周知

目標が決まったら、担当者と期限を決めて施策を実行に移します。「誰が・いつまでに・何をするか」を1枚のシートにまとめると、思いつきの単発で終わりません。

実行と同じくらい大切な作業が社内への周知です。取り組みの目的を朝礼や社内報で経営者自ら説明すると、現場の協力を得やすくなります。入社90日以内のオンボーディングや月1回の1on1など、頻度を決めて仕組みに落とし込みましょう。管理職には運用ルールを文書で共有し、部署ごとのばらつきを防いでください。

効果測定と改善

施策は実行して終わりではなく、効果の測定と改善まで進めて初めて定着します。目標に対する進み具合を、四半期ごとに離職率や有給取得率などのデータで確認しましょう。

月1回のパルスサーベイを使うと従業員の変化を早く察知でき、改善のサイクルも速く回せます。結果は経営層と現場に可視化して共有し、効果が薄い施策は3か月〜半年を目安に見直します。成果が出た取り組みは他部署へ広げ、翌年度の計画に反映させましょう。

人材定着の取り組みで失敗しないための注意点

人材定着の取り組みで失敗しないための注意点

人材定着の取り組みは「施策の形骸化」「不満解消への偏り」「現場任せの体制」の3点でつまずきがちです。運用まで見据えた制度設計と衛生要因・動機づけ要因のバランス、経営層や管理職の巻き込みが失敗を防ぐ鍵になります。

施策の形骸化を防ぐ

人材定着の施策は、導入後の運用まで決めておかないと形骸化します。実際、担当者の異動をきっかけに面談やアンケートが止まる例は少なくありません。

特に危険なのは、集めた意見を放置するケースです。福祉医療機構も、職員の声を聞いた以上は応える責任が生じると指摘しています。対応しないままでいると、社員の会社への感情はむしろ悪化します。

形骸化を防ぐには、面談の頻度や意見への回答期限、担当者をあらかじめ決めておきましょう。小さく始めて続けられる仕組みにすると、施策が組織に根づきます。

不満解消と動機づけのバランス

定着施策では、不満の解消とやる気の向上を分けて考える視点が欠かせません。心理学者ハーズバーグは、働く人の欲求を2種類に分けました。給与や人間関係は「衛生要因」と呼ばれ、不備があると不満を生みます。

一方、達成感や承認は「動機づけ要因」で、モチベーションを高めます。自主退職の理由は78%が人間関係や給与など衛生要因という調査結果もあります。まずは待遇や職場環境の不満を解消し、その上で成長機会や承認による動機づけを図りましょう。不満対策だけでは満足が生まれない点に注意が必要です。

経営層・管理職の巻き込み

人材定着は、人事担当者だけでなく経営層と管理職を巻き込んで進めましょう。社員の意欲を左右するのは、日々接する上司のマネジメントだからです。民間の退職者調査では、大企業を退職した中核人材の47.2%が意欲低下の要因に上司への不満を挙げました。

上司をビジネスパーソンとして尊敬できなかったという回答も68%に上ります。経営層が定着を経営課題として社内に発信すると、現場での優先度が上がります。管理職には面談の進め方や部下への声かけを学ぶ研修が有効です。現場任せにせず、会社全体で取り組む体制を整えてください。

人材定着に関するよくある質問

人材定着に関するよくある質問

人材定着の実務で人事担当者からよく寄せられる質問に回答します。定着率と離職率の違いや新卒の平均値に加え、中小企業向けの無料施策と早期離職対策も取り上げました。数値は厚生労働省の最新調査に基づいています。

Q. 定着率と離職率の違いは何ですか?

定着率は在籍している人に、離職率は退職した人に注目する指標です。同じ事象を逆側から測る関係で、同一期間・同一母数なら合計は100%になります。例えば定着率80%の職場は、離職率20%と言い換えられます。採用広報では定着率が、行政統計では離職率が使われる傾向にあります。

Q. 新入社員の定着率の平均はどのくらいですか?

厚生労働省の調査では、大卒新入社員の3年後の定着率は平均66.2%です。2022年3月卒の新卒の3年以内離職率が33.8%で、前年比1.1ポイント低下しました。高卒は離職率37.9%で、定着率は62.1%にとどまります。大卒の約3人に1人が3年以内に離職する計算です。

Q. 中小企業でも費用をかけずに定着施策を実施できますか?

中小企業でも、無料でできる定着施策は十分にあります。業務マニュアルの整備や、相談しやすい座席レイアウトへの見直しは費用ゼロです。休憩室に電子レンジやポットを置くだけでも、働きやすさの体感は変わります。高額なシステム導入の前に、手元の職場環境の改善から着手しましょう。

Q. 新入社員の早期離職を防ぐには何から始めればよいですか?

早期離職の防止は、新入社員が相談しやすい環境づくりから始めるのが有効です。求職者調査では、成長できそうな企業の特徴として相談しやすい環境が最多でした。週1回15分でも1on1面談を設け、不安を早めに拾う体制をつくりましょう。入社後3カ月間のオンボーディング計画を作ると、育成の抜け漏れも防げます。

人材定着の仕組みづくりで選ばれる会社になろう

人材定着は、離職の原因分析から始まります。給与や評価への不満、人間関係、キャリアの見通しなど、辞める理由は従業員ごとに異なります。

まず離職データとサーベイで自社の課題を特定し、優先度の高い施策から実行しましょう。オンボーディングや1on1は低コストで始められます。効果測定と改善を年単位で続けて、求職者からも社員からも選ばれる会社への一歩を踏み出してください。

当オフィスでは、離職データの分析から評価制度・キャリア支援の設計、求人票の見直しや面接代行まで、採用から定着まで一貫してサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からお気軽にご相談ください。

サービス内容を見る →
← ブログ一覧へ戻る