合同会社 柴田人事労務オフィス
Shibata HR & Labor Office LLC.
人材定着・組織づくり

静かな退職が起きる3つの原因と兆候|放置するリスクと防止策を解説

静かな退職が起きる3つの原因と兆候

「辞めないけれど、言われた仕事しかしない社員が増えた」「注意すべきか、放っておくべきか判断できない」など、静かな退職への向き合い方に迷う経営者は少なくありません。

静かな退職は、社員のやる気ではなく組織の設計から生まれます。評価と対話の仕組みを整えれば、社員の力の出し方は変えられるのです。

本記事では、静かな退職の定義から兆候の見つけ方、企業が受けるリスクまでを詳しく解説します。さらに、人事労務の視点から経営者が取るべき4つの行動と、対応で避けたい判断も紹介します。

静かな退職とは必要最低限の仕事だけをこなす働き方

静かな退職とは必要最低限の仕事だけをこなす働き方

静かな退職は、辞めずに必要最低限の業務だけをこなす働き方です。正社員の46.7%、20代では50.5%が該当し、私生活を優先する価値観の広がりが背景にあります。

サイレント退職との違い

静かな退職とサイレント退職は、辞めるかどうかが違います。静かな退職は英語のクワイエット・クィッティングの訳語で、在籍したまま職務の最低限だけを果たす働き方を指します。熱心な勤務姿勢を手放し、決められた責任だけを担う状態です。

サイレント退職は予兆を見せずに突然辞める行動で、両者は別物です。席にいるのに熱意が下がっている社員は、静かな退職に当たります。対応の入り口が違うため、経営者はまず2つを分けて捉える必要があります。

静かな退職を選ぶ人の割合

静かな退職は一部の例外ではなく、働き手の半数近くに広がっています。マイナビが2026年4月に公表した調査では、正社員の46.7%が静かな退職をしていると回答しました。前年より2.2ポイント増加した結果です。

年代別では20代が50.5%で最も高く、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%と続きます。このように、若手だけの傾向ではない点が読み取れます。

さらに静かな退職を続けたい人は、73.7%に達しました。どの企業においても、社内に「静かな退職者」がいる前提で組織を見直す段階に来ています。

静かな退職を選ぶ社員に多い考え方

静かな退職を選ぶ社員は、仕事を軽視しているわけではありません。本人なりにワークライフバランスを守り、働き続ける道を探しています。ある調査では、静かな退職の理由として「仕事よりプライベートを優先したい」が38.2%、「努力しても報われない」が27.3%を占めました。

昇進の魅力も薄れており、転職サービスdodaの調査では出世したくない人が58.5%に上ります。価値観の変化と評価への不満が重なった結果、といえるかもしれません。本人の怠慢と決めつける前に、会社側の仕組みを点検したい場面といえます。

静かな退職が広がる背景と原因

静かな退職が広がる背景と原因

静かな退職は社員個人の気質だけで起きるわけではありません。仕事より生活を重視する価値観の広がり、評価基準の不透明さ、昇進の魅力低下という3つの要因が重なっています。

働き方への価値観が変わった

「仕事は人生の中心」という前提は、すでに多くの社員に共有されていません。日本生産性本部の2019年度調査では、働き方を「人並みで十分」と答えた新入社員が63.5%に達しました。「人並み以上に働きたい」は29.0%にとどまります。

リモートワークが広がり、家族や趣味の時間を優先する価値観の多様化も進みました。人並みに稼げれば、あとは自分の自由時間を確保したいというワークライフバランスを守る働き方は、社員にとって自然な選択になっています。

評価制度への不満が意欲を削ぐ

頑張っても評価が変わらない職場では、社員は力の出し方を自分で調整し始めます。基準が曖昧で経営者の主観に左右される評価制度だと、人事評価に不満を持つ従業員が増えるのは避けられません。

基準の見えない評価制度や成果が報酬に反映されない企業は、社員の意欲を少しずつ奪うのです。

昇進しても報われない実感

昇進が魅力的な目標として映らない状況も、静かな退職を後押ししています。パーソル総合研究所の定点調査では、今の会社で管理職になりたい人は15.7%でした。2017年の21.7%から下がり続けています。

責任と業務量は増える一方で、給与の上がり幅は限られます。出世の先に得られるものが見えなければ、社員が最低限の働き方を選ぶのは自然な流れです。

静かな退職の兆候として現れる社員のサイン

静かな退職の兆候として現れる社員のサイン

静かな退職は、社員の日々のふるまいに小さな変化として表れます。会議での発言、研修や新しい仕事への向き合い方、残業や社内交流への姿勢に注目してください。

以前の様子との違いを見れば、意欲の低下に早い段階で気づけます。

会議での発言が減る

会議での発言の変化は、意欲の低下を映す兆候です。静かな退職の状態にある社員は、提案やアイデア出しを控えるようになりがちです。意見を求めても「特にありません」と返す場面が増えていきます。

注目したいのは発言の少なさではなく、以前との差です。半年前まで自ら企画を持ち込んでいた社員が、黙って聞くだけになっていないでしょうか。もともと口数の少ない社員を消極的だと決めつけるのは筋違いです。変化に気づいたときは、評価ではなく対話のきっかけとして受け止めてください。

研修や新しい仕事を避ける

研修や新しい業務への向き合い方にも、静かな退職のサインが表れます。新しい課題や責任を避け、決められた仕事だけをこなす状態が続くためです。

以前は自ら手を挙げていた社員が、研修の案内に反応しなくなります。資格取得やスキルの相談が、半年以上途絶えていないでしょうか。異動や新規プロジェクトの打診を、理由をつけて辞退する場面も目立ちます。

挑戦を控える背景には、家庭の事情や体調など仕事以外の要因も潜みます。断った回数だけで意欲を測らず、事情を聞く姿勢を大切にしてください。

残業と社内交流を断るようになる

残業や社内交流の断り方にも、態度の変化が読み取れます。定時退社は社員の当然の権利であり、行動そのものを責める理由にはなりません。見たいのは以前との落差です。

週に数回は残って準備していた社員が、時間ぴったりで席を立つようになります。チャットの返信が一言だけに短くなる例もあります。歓迎会やランチの誘いを続けて断るなら、同僚との距離が広がっているサインかもしれません。

働き方の選択を責めず、業務量や体調の変化を尋ねる場をつくってください。

企業が受ける静かな退職のリスク

企業が受ける静かな退職のリスク

静かな退職が広がると、まじめな社員に業務が集中します。不公平感から意欲の高い人材が抜け、採用コストも膨らみます。挑戦の芽も減り、組織の成長は止まるでしょう。

いずれも数字に表れにくく、気づいた時には打ち手が限られます。

周囲の社員に負担が偏る

静かな退職が増えると、業務の負担は責任感の強い社員へ偏ります。必要最低限の働き方を選ぶ人が増えると、急な顧客対応や残務を引き受ける人が固定化するためです。突発的な事態が起きた際に、周囲が負担を抱え込む構図です。

負担が偏った職場では不公平感が生まれ、チーム全体の生産性が下がります。残業や休日対応が特定の数人に集中し、頑張る社員ほど疲れる状態は、組織の課題として早めに手を打ちたい問題です。

意欲の高い人材から流出する

不公平な状態を放置すると、意欲の高い社員から先に辞めていきます。頑張っても報われない職場では、市場価値の高い人ほど転職先を見つけやすいためです。

中途採用の平均コストは1人あたり103.3万円という調査結果があります。3人が続けて辞めると、採用費だけで300万円を超えます。

厚生労働省の令和6年雇用動向調査でも、離職率は14.2%と人の移動は活発です。新しく採用した社員が戦力になるまで半年前後かかり、負担は残った社員に回ります。核となる人材の流出は、売上より先に現場の実務を止めます。

組織の成長機会が失われる

静かな退職が定着した組織は、新しい挑戦が生まれにくくなります。言われた業務だけをこなす空気が広がり、改善提案が出なくなるためです。ギャラップ社の2025年の調査では、日本で仕事に熱意を持つ社員は8%でした。世界平均の20%を大きく下回り、伸びしろが眠ったままの状態です。

エンゲージメントとは仕事への前向きな関与を指し、低いほど自発的な動きは減ります。既存業務は回っていても、新商品や業務改善の芽は育ちません。停滞は数字に表れるまで時間がかかり、気づいた時には競合との差が開いています。

経営者が静かな退職を防ぐために取るべき行動

静かな退職は社員のやる気が落ちた結果ではありません。頑張っても報われない設計が、社員に最低限の働き方を選ばせています。経営者が手をつけるべきは説教ではなく、評価と対話と管理職と働き方の4つの仕組みです。

評価制度で貢献を見える形にする

社員の意欲を左右する最大の要因は、評価制度の納得感です。従業員50名規模の会社では、評価が社長の主観で決まる例が少なくありません。何をすれば報われるか分からない職場で、社員は力を出し惜しみします。

厚生労働省は業種別に成果につながる職務行動をまとめた職業能力評価基準を公開しています。自社の職種に近い項目を借り、評価項目を5つに絞って全社に開示するところから始めてください。人事評価制度の整備には人材確保等支援助成金も使えます。評価基準を言語化するだけで、社員の目の色は変わります。

1on1で期待値をすり合わせる

評価制度を作っても、期待役割が伝わらなければ社員は動けません。1on1とは上司と部下が1対1で行う定期的な対話です。パーソル総合研究所の調査では、直近半年で1on1を受けた部下は55.7%にとどまりました。

同じ調査では、上司の35.4%が面談を学ぶ仕組みがないと答えています。月1回30分から始め、今期この人に何を期待するかを言葉で伝えてください。話す内容に迷うなら、仕事の手応えと困りごとの2点に絞ると続きます。評価とつながった対話が、静かな退職の入口を塞ぎます。

管理職のマネジメントを立て直す

部下の意欲を最も近くで左右するのは、直属の管理職です。労働政策研究・研修機構の調査では、課長職は全体的に時間が足りていないと指摘されています。プレイヤーとして数字を追いながら、部下の育成まで担う構図には無理があります。

管理職個人の資質を責めても状況は変わりません。まず管理職の担当業務を1つ外し、部下との面談時間を業務として確保してください。評価者研修を年1回入れ、評価のばらつきをそろえる方法も有効です。管理職が疲弊した職場で、部下だけが前を向く展開は起きません。

多様な働き方を制度として認める

全員が同じ熱量で働く前提を捨てると、組織は強くなります。育児や介護を抱える社員にとって、フルタイム前提の職場は退職か手抜きかの二択になりがちです。厚生労働省は職務や勤務地、労働時間を限定して選べる多様な正社員の普及を進めています。

短時間勤務でも正社員として処遇する道を用意すれば、貢献の形が増えます。就業規則の書き方はモデル就業規則を土台にすると早いです。静かな退職を選ぶ社員をゼロにする必要はありません。働き方の選択肢を増やし、無理なく続く貢献を受け止める設計に変えましょう。

静かな退職への対応で経営者が避けたい判断

意欲の低い社員を前にすると、降格や減給で締めつけたくなる場面もあります。ただし進め方を誤ると、労働契約法やパワハラ防止法に触れるおそれがあります。放置もまた安全配慮義務違反や静かな解雇と評価されかねない対応です。

意欲の低さを理由に不利益な扱いをする

意欲が低いという理由だけで降格や減給に踏み切る判断は、避けたほうが安全です。労働契約法8条は、労働条件の変更に労使の合意を求めています。就業規則の範囲内で職務を果たしている社員の場合、不利益な扱いは人事権の濫用と判断されるおそれがあります。

実際の降格処分でも、本人に大きな落ち度がないのに2段階以上下げる例は違法とされてきました。評価への納得感を欠いた減給は、社員との信頼関係を一気に悪化させます。まず評価基準と手続きの公正さを点検してください。

精神論で改善を求める

精神論で改善を求める伝え方は、ハラスメントと受け取られる危険があります。厚生労働省はパワハラの類型に「精神的な攻撃」を挙げ、脅迫や侮辱を例示しています。「気合が足りない」と繰り返す指導は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたと評価されかねません。

仕事を取り上げる対応も「過小な要求」に当たるおそれがあります。叱責の記録が残れば、後の紛争で会社に不利な材料となりかねません。改善を促すなら、期待する行動と成果を具体的な数値や期限で示してください。

兆候に気づきながら放置する

兆候に気づきながら放置する判断は、法的なリスクを伴います。労働契約法5条は、社員の心身の安全に配慮する義務を会社に課しています。不調のサインを放置した結果、社員が体調を崩せば安全配慮義務違反を問われるおそれがあります。

仕事や機会を与えず自主退職に追い込む「静かな解雇」も同じ問題を抱えています。居場所がないと感じた社員は、転職に踏み切りやすくなります。早期に動くほど、関係の修復にかかる負担は軽くなります。兆候を見つけたら、まず面談の場をつくり事実を確かめてください。

静かな退職に関するよくある質問

静かな退職は個人の選択であり、頭ごなしに否定できません。実践者の割合は20代で5割を超え、40代・50代にも広がっています。

就業規則上の職務を果たす社員の解雇は法的に困難です。対策は現状把握から着手するのが現実的といえます。

Q. 静かな退職は何が悪いのでしょうか?

静かな退職そのものは、働き方の選択として責められるものではありません。本人には私生活の時間を確保できるメリットがあります。企業側の課題は認識のズレです。

人材ニュースの調査では、実践者の4割以上が職場への影響はないと答えました。管理職で同じ回答をした人は11.9%にとどまります。ズレを放置すると、周囲の負担増や不公平感というデメリットが広がります。悪いのは個人の姿勢ではなく、ズレに気づけない組織の状態だといえます。

Q. 静かな退職はどの世代に多いですか?

20代が最も高い一方で、40代・50代にも広く見られます。マイナビの2026年調査における年代別の割合は、20代が50.5%で最多です。30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%と続きます。若手やZ世代だけの現象ではありません。

20代は損得を重視する傾向が強く、ミドル層は職場との不一致や評価への不満が目立ちます。世代でひとくくりにせず、年代ごとに事情を確かめる姿勢が求められます。

Q. 静かな退職をしている社員を解雇できますか?

就業規則上の職務を果たしている社員の解雇は、極めて困難です。労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない解雇を無効と定めています。

解雇権濫用の法理と呼ばれる考え方です。厚生労働省も、社会の常識に照らして納得できる理由が必要だと示しています。意欲が低いという印象だけでは理由になりません。労働契約で求めた水準を満たす限り、解雇の判断は無効になる危険が高いといえます。

Q. 静かな退職を防ぐ取り組みは何から始めるべきですか?

現状把握から始めるのが順当です。対策の優先順位を誤ると、施策だけが増えて効果が出ません。まず1on1で社員の考えを聞き取ります。1on1は上司と部下が定期的に行う短い面談です。報告の場ではなく本音を聞く場として設計します。

並行してエンゲージメントサーベイを使うと、組織全体の傾向を数値でつかめます。サーベイは働く意欲や愛着を測る調査です。声を集めてから制度に手を入れる順番が確実といえます。

静かな退職を組織の見直しを促す合図として受け止めよう

静かな退職は正社員の46.7%に広がり、社員個人の資質では説明できません。会議での発言や挑戦する姿勢の変化に気づいたら、まず面談で事情を聞いてください。

意欲の低さを理由にした降格や、精神論での叱責は逆効果です。経営者が取り組むべきは、評価基準の言語化と1on1、管理職の負担軽減、働き方の選択肢づくりです。評価項目を5つに絞って開示する一歩から、組織の立て直しを始めましょう。

当オフィスでは、評価制度の設計や1on1の導入支援、就業規則の整備から働き方制度の見直しまで、静かな退職を防ぐ組織づくりをサポートしています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からお気軽にご相談ください。

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