合同会社 柴田人事労務オフィス
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企業型DC・金融教育

企業型DCの元本確保型放置を防ぐ|指定運用方法と商品ラインアップの見直し方

企業型DCの加入者のうち、元本確保型商品だけで運用する人は平均22.6%です。制度に加入した日に選んだ商品が、そのまま10年以上動かないケースも珍しくありません。

放置の責任を従業員だけに求めるのは早計です。加入者が商品を選ばなかったときに掛金が充てられる指定運用方法を、会社が元本確保型に設定している場合があります。提示している商品の本数や手数料も、会社が運営管理機関と決めた条件です。

会社側が動かせる部分は、思っているより広く残っています。

本記事では、元本確保型が放置される実態と、指定運用方法・商品ラインアップという制度設計の見直し方を詳しく解説します。さらに加入者に見直しを促す実務と、退職者の資産が自動移換される放置への備えまでを紹介します。

企業型DCで元本確保型が放置される実態

企業型DCで元本確保型が放置される実態

企業型DCでは、定期預金などの元本確保型商品を選んだまま運用を見直さない加入者が残っています。担当者が対策を考えるうえで、実態を数値で押さえる必要があります。加入者の割合と、放置と呼ばれる状態の中身を整理します。

元本確保型だけで運用する加入者の割合

企業型DCの加入者のうち、元本確保型商品だけで運用する人の割合は平均22.6%です。元本確保型商品とは、定期預金や保険など元本割れが起きにくい運用商品を指します。前回調査の24.5%から低下したものの、加入者の2割強が該当します。

資産残高ベースでは、元本確保型商品が33.6%、投資信託が66.2%を占めます。元本確保型のみの加入者が8割以上を占める企業も1.9%あり、職場によって状況に差が出ています。

出典:企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(概要版)」

最初に選んだ商品がそのまま続く

加入時に選んだ運用商品が、そのまま長期間続く傾向があります。企業型DC・iDeCoの加入者への調査では、スイッチング(保有商品の預け替え)の未経験者が60%程度、配分変更の未経験者が50%程度でした。残高を一度も確認していない人も25%程度います。

見直す機会がないまま、最初の選択が受け取り時まで残ります。制度の説明を受けた直後に決めた商品が、10年後や20年後の資産額を左右します。

出典:野村アセットマネジメント「Investor Insights 2025 ‐確定拠出年金に関する意識調査‐」

「放置」には2つの種類がある

企業型DCの放置は、在職中に運用商品を見直さない放置と、退職後に資産を移換しない放置(自動移換)の2つに分かれます。2つの違いを表にまとめます。

放置の種類起きるタイミング資産の状態
運用商品を見直さない放置在職中加入時に選んだ商品のまま運用が続く
資産を移換しない放置(自動移換)退職・転職後国民年金基金連合会に資産が移り、運用が止まる

運用商品を見直さない放置は、運用成果の差となって表れます。資産を移換しない放置は、運用が止まったまま手数料が引かれ、資産が目減りします。企業型DCの資格喪失から6か月以内に移換や請求の手続きがないと自動移換となるため、担当者が声をかける時期も変わります。

出典:企業年金連合会「用語集|自動移換」

元本確保型の放置が従業員と会社に与える影響

元本確保型の放置が従業員と会社に与える影響

元本確保型は、定期預金や保険など原則として元本が減らない商品です。資産は減りませんが、物価上昇と制度の想定利回りという2つの基準で見ると、従業員の受取額は目減りします。会社側にも確定拠出年金法に基づく責務があります。

インフレで実質的な価値が目減りする

元本確保型のみで運用すると、資産の実質的な価値は年々目減りします。物価の上昇率が預金の利率を上回っているためです。直近の数値を並べると差がはっきりします。

項目直近の水準
消費者物価指数(総合)の前年同月比1.7%(2026年6月)
定期預金(1年・預入1千万円以上)の店頭表示金利の平均年0.384%(2026年7月)

100万円を1年預けた場合の利息は3,840円(税引前)です。一方で同じ買い物には1万7,000円多く必要となり、差し引き1万3,160円分の購買力が失われます。

出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)結果」/日本銀行「預金種類別店頭表示金利の平均年利率等」

想定利回りに届かず退職給付の水準が下がる

想定利回りは、会社が制度設計時に置く運用利回りの前提です。掛金の額とモデル給付額は、前提となる利回りを基に決まります。企業年金連合会の2024年度調査では、想定利回りの平均は2.02%でした。

年0.4%前後の金利水準では前提に届きません。不足分は退職時の受取額の減少として従業員に及びます。制度設計の前提と実際の運用が離れたままだと、会社が示したモデル給付額も実態と合わなくなります。

出典:企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(想定利回り)」

会社には継続投資教育の努力義務がある

確定拠出年金法第22条は、事業主に「資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置」を継続的に講ずるよう努めることを求めています。加入後も続ける教育は継続投資教育と呼ばれ、努力義務にあたります。

厚生労働省の法令解釈通知は、事業主等が加入後も定期的かつ継続的に投資教育の場を設け、加入者の理解向上を促す必要があると示しています。教育を欠いたまま元本確保型が放置されれば、受取額が想定を下回った際に事業主の姿勢が問われかねません。

出典:e-Gov法令検索「確定拠出年金法」/厚生労働省「確定拠出年金制度について(法令解釈通知)」

指定運用方法(デフォルト商品)の設計を見直す

指定運用方法(デフォルト商品)の設計を見直す

運用の指図をしない加入者が一定数残る企業では、指定運用方法の中身が将来の受取額を左右します。法令上の位置づけと元本確保型を置く場合の論点、変更手続きの流れを順に整理します。規約の見直しを検討する際の判断材料になります。

指定運用方法とは何か

指定運用方法は、加入者が運用商品を選ばないまま一定期間が過ぎたとき、掛金が自動的に充てられる商品です。2018年5月1日施行の改正確定拠出年金法により、法第23条の2として法令上の位置づけが整理されました。

自動的に充てられるまでには2段階の期間があります。最初の掛金が納付された日から3か月以上で規約に定める期間を「特定期間」といい、経過しても指図がなければ加入者へ通知が届きます。

その後2週間以上で規約に定める「猶予期間」を過ぎると、指定運用方法へ全額を充てる指図をしたとみなされます。

出典:厚生労働省「確定拠出年金制度等の一部を改正する法律の主な概要(2018年5月1日施行)」

元本確保型を指定運用方法にしている場合の論点

指定運用方法に元本確保型商品(定期預金や保険)を置く企業は、採用企業の60.1%を占めます。企業年金連合会の2024年度調査では、回答807社のうち43.0%が指定運用方法を設け、その内訳はバランス型投資信託が39.3%でした。

確定拠出年金法第23条の2第2項は、指定運用方法に基準を求めています。長期的な観点から物価などの変動による損失に備え、収益の確保を図る必要があります。厚生労働省の法令解釈通知も、元本確保型では投資機会を逃す可能性とインフレ時に購買力を保てない点の説明を求めています。

出典:企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(指定運用方法)」/厚生労働省「確定拠出年金制度について(法令解釈通知・全文)」

指定運用方法を変更する手順

指定運用方法を変えるときは、労使協議を経て運営管理機関が改めて選定するプロセスを踏みます。厚生労働省の確定拠出年金Q&Aが示す流れは次のとおりです。

  • 事業主が運営管理機関へ加入者の年齢構成などを共有する
  • 運営管理機関が候補商品と選定理由を説明する
  • 労使で協議し、結果を運営管理機関へ伝える
  • 運営管理機関が協議結果を尊重して選定する

規約の記載事項が変わらなければ規約変更は不要ですが、労使協議は省けません。規約を変える場合は労使の同意と厚生労働大臣の承認が必要で、承認後は遅滞なく加入者へ周知します。

出典:厚生労働省「確定拠出年金Q&A」

運用商品ラインアップの見直し方

運用商品ラインアップの見直し方

運用商品のラインアップは、確定拠出年金法と施行令で提示できる本数の範囲が定められています。見直しにあたっては、本数・手数料・除外手続きの3点が判断の軸になります。3点の法令要件と実務上の確認点を整理しました。

提示できる運用商品数の上限

企業型DCで提示できる運用商品は、3本以上35本以下です。上限の35本は確定拠出年金法施行令第15条の2が定めています。35本を超えて提示できた経過措置は、2023年4月30日に終了しました。

企業年金連合会の2024年度調査では、提示本数の平均は22.1本でした。内訳は元本確保型が4.4本、投資信託が18.0本です。上限に近い31〜35本の企業は12.1%にとどまり、上限まで並べる必要はありません。

出典:e-Gov法令検索「確定拠出年金法施行令」/企業年金連合会「2024(令和6)年度 企業型確定拠出年金実態調査結果(運用商品数)」

手数料の水準を確認する

運用商品の手数料は、事業主が中身を確かめるべき項目です。厚生労働省の法令解釈通知は、個々の運用商品の質を手数料を含めて十分に吟味し、選定理由を説明するよう求めています。

投資信託の信託報酬とは、保有している間ずっと資産から差し引かれる運用管理費用です。水準の差は長期で受取額の差につながります。

通知は運用商品の一覧表に、販売手数料率・信託報酬率・信託財産留保額率・保険商品の解約控除を示すよう求めています。運営管理機関を選ぶ場面でも、手数料の額などを複数社で比較して評価するよう定めています。

商品を除外するときのルール

運用商品を除外するには、除外する商品で運用している加入者の3分の2以上の同意が必要です。確定拠出年金法第26条第1項が定める要件で、所在が明らかでない人は母数から除きます。契約の相手方が欠けた場合など、厚生労働省令で定める事由があるときは同意が不要です。

同条第2項では、除外の通知をした日から規約で定める期間を過ぎても意思表示がない場合、同意したとみなせます。期間は3週間以上とされ、みなし同意の扱いは通知への記載が要ります。除外した後は、対象の加入者への通知も必要です。

加入者に運用の見直しを促す実務

加入者に運用の見直しを促す実務

企業型DCの資産は、加入者が自分で運用商品を選ばなければ動きません。担当者の役割は、見直しのきっかけを定期的に作り、手続きの違いを平易な言葉で届ける点にあります。年間の実務に落とし込む手順を、3つの視点から整理します。

声をかけるタイミングを決める

声かけは思いつきではなく、年間スケジュールに固定すると社内に定着します。加入者の記録を管理する記録関連運営管理機関等には、毎年少なくとも一回、資産額を通知する義務があります。通知が届く月は、加入者が自分の残高に目を向ける数少ない機会です。

案内を差し込みやすい場面は、ほかにも次の4つがあります。

  • 入社と加入手続きの直後
  • 昇給や賞与の支給月
  • 結婚・出産・住宅購入の届出時
  • 定年まで10年を切る年齢への到達時

出典:厚生労働省「確定拠出年金法(法令等データベース)」

配分変更とスイッチングの違いを伝える

2つの手続きは、動かす対象が違うと伝えると混乱が減ります。企業年金連合会は、スイッチング(預替え)を運用商品の売買で積み立てた資産残高を変更する手続きと説明しています。配分変更とは別の指図が要るため、社内説明では表で並べると伝わりやすくなります。

手続き動かす対象加入者への説明
配分変更これから拠出する掛金今後買う商品と割合を変える
スイッチング(預替え)すでに積み上がった資産保有中の商品を売って別商品へ移す

注意点も同時に伝えます。売却から購入までは数日かかり、その値動きは加入者が負います。投資信託には解約時に差し引かれる信託財産留保額がかかる商品があり、満期まで持てば元本が守られる保険商品でも中途解約では元本を下回る場合があります。

出典:企業年金連合会「用語集|スイッチング(預替え)」

継続投資教育で伝える中身

内容は法令解釈通知が示す4項目から選びます。厚生労働省の通知が投資教育の内容として掲げているのは、次の4つです。

  • 確定拠出年金制度等の具体的な内容
  • 金融商品の仕組みと特徴
  • 資産の運用の基礎知識
  • 確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計

同通知は、加入後の継続的な投資教育を「加入時に基本的な事項が習得できていない者に対する再教育の機会」と位置づけています。4項目を毎回すべて扱う必要はなく、年ごとにテーマを絞る組み立てでも足ります。

退職者の資産が自動移換される放置

退職者の資産が自動移換される放置

退職した従業員が移換手続きを忘れると、資産は国民年金基金連合会へ自動的に移されます。運用は止まり、手数料だけが引かれ続ける状態に陥ります。会社の案内不足が引き金になる場面も少なくありません。

自動移換とは何が起きる状態か

自動移換とは、退職後6か月以内に移換手続きが行われず、個人別管理資産が国民年金基金連合会へ移される状態です。個人別管理資産とは、従業員一人ひとりの口座で管理される年金資産を指します。

根拠は確定拠出年金法第83条第1項第1号です。移された資産は無利息の現金として預かられ、運用の指図ができなくなります。

2026年6月末時点の自動移換者は149万951人でした。資産がなく記録だけを管理されている人が、2026年3月末で43.9%を占めています。

出典:国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入等の概況(2026年6月)」

自動移換で従業員が失うもの

自動移換の間、資産は増えないまま手数料だけが減り続けます。運用の指図ができないうえ、自動移換中の期間は老齢給付金を受け取るための加入者等期間に算入されません。受給を始められる年齢が遅くなる場合もあります。

2026年4月1日から適用される手数料は次のとおりです。

手数料の種類金額
新規自動移換手数料4,348円(1回)
管理手数料月98円(自動移換の4か月後から)
他制度への移換手数料550円(1回)

管理手数料は年1,176円にあたり、10年放置すると1万1,760円が資産から差し引かれます。

出典:国民年金基金連合会・特定運営管理機関「自動移換にかかる手数料改定のお知らせ」/特定運営管理機関「よくあるお問い合わせ」

退職時に会社が案内すること

事業主には、資格を喪失することが見込まれる従業員へ移換手続きを説明する義務があります。2026年4月1日施行の改正で、説明の時期が「資格を喪失したとき」から「資格を喪失することが見込まれるとき」へ前倒しされました。退職日を待たず、退職手続きの案内に組み込む運用が実務に合います。

退職者向けの案内には、次の4点を盛り込みます。

  • 移換の申出期限は、資格喪失日の属する月の翌月から起算して6か月以内です
  • 転職先に企業型DCがあるかどうかで、手続きの届け先が変わります
  • 期限を過ぎると国民年金基金連合会へ自動移換され、手数料が発生します
  • 手続きの相談先として、特定運営管理機関の問い合わせ窓口を示します

出典:厚生労働省「2025年の制度改正」/関東信越厚生局「確定拠出年金の資格喪失者への移換手続の周知についてのお願い」

企業型DCの元本確保型の放置に関するよくある質問

企業型DCの元本確保型の放置に関するよくある質問

元本確保型の見直しを進めると、法令面の疑問が担当者から挙がります。特定商品をすすめてよいのか、加入者の運用状況をどこまで見られるのか、教育を怠ると罰則があるのか。実務で判断に迷いやすい4つの論点を、条文にあたって整理します。

Q. 元本確保型を選ぶのは間違いですか?

元本確保型(定期預金や保険など元本が減りにくい商品)そのものが誤りとは言えません。退職まで数年という加入者にとっては、値動きの小さい商品が合う場面もあります。問題になるのは、選んだ結果ではなく、選ばないまま置かれ続けている状態です。

入社時の初期設定のまま10年以上動いていない口座は、加入者が判断を下したとは言えません。会社が見るべき点は商品の中身ではなく、加入者が自分で選べる状態にあるかどうかです。

Q. 会社から特定の商品をすすめてもよいですか?

すすめられません。確定拠出年金法第43条第3項と施行規則第23条が、事業主の禁止行為を定めています。厚生労働省の法令解釈通知は、自社株式などの特定商品について指図を勧める行為を、いかなる場合であっても禁止と説明しています。

運営管理機関(商品の選定や記録管理を担う金融機関)にも同じ制限があります。法第100条第6号は、提示した運用の方法のうち特定のものについて指図を勧める行為を禁じています。

Q. 加入者の運用状況を会社は把握できますか?

個人が特定されない集計の形であれば把握できます。確定拠出年金法第43条第2項は、事業主が扱える加入者の個人情報を、業務の遂行に必要な範囲内に限っています。氏名つきで個人別管理資産額を一覧する使い方は認められません。

厚生労働省の法令解釈通知は、運営管理機関が運用の実態を定期的に把握・分析して事業主へ伝えるよう努めると示しています。商品区分ごとの資産配分や運用指図の変更回数は、継続投資教育の設計材料になります。

Q. 継続投資教育を実施していないと罰則はありますか?

法律に罰則の定めはありません。確定拠出年金法第22条第1項は「資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を継続的に講ずるよう努めなければならない」と定めており、努力義務にあたります。

ただし罰則がない点をもって、義務が軽いとは言えません。企業年金連合会は、教育内容の当否を一律に判断しにくいため罰則規定を避けたにすぎないと説明しています。事業主には法第43条第1項の忠実義務(加入者のために誠実に業務を行う義務)もあります。

出典:企業年金連合会「年金Q&A 投資教育」

会社が動かせる部分から企業型DCの放置を減らそう

元本確保型のまま止まっている資産は、従業員の意識だけが原因ではありません。指定運用方法に何を置いているか、商品を何本提示しているかは、会社と運営管理機関が決めた条件です。

まず自社の指定運用方法と提示本数を確認してください。次に、運用報告書が届く時期に合わせて見直しの案内を年間予定へ組み込みます。退職予定者への移換の説明も、退職手続きの流れに入れておくと漏れません。

当オフィスでは、企業型DCの継続投資教育の設計や、従業員への伝え方・制度の見直しまでをご支援しています。「従業員に自分の資産として意識してほしい」という段階からお気軽にご相談ください。

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