柴
合同会社 柴田人事労務オフィス
Shibata HR & Labor Office LLC.
AI・業務効率化

AI導入のメリット・デメリット|公的データで判断材料を整理

「AIを入れれば効率は上がりそうだけれど、リスクのほうが大きくないだろうか…」「経営会議で聞かれたとき、根拠のある数字で答えられるだろうか?」

AIを導入した企業の91.6%が、業務の効率化や迅速化を効果に挙げています。一方で中小企業の46.9%は導入コストを課題とし、社内のAI人材不足を挙げる企業も38.8%あります。

効果と負担の両方が、すでに数字で見えている状態です。判断を先延ばしにするほど、比べる材料だけが増えていきます。

AI導入の可否は、メリットとデメリットを並べて比べれば決められます。どちらが大きいかは会社ごとに変わり、対象業務の選び方と確認体制の作り方で結果が動くのです。

本記事では、AI導入で得られる5つのメリットと、起こりうる5つのデメリットを公的な調査の数字とともに詳しく解説します。さらに業種別の実例と中小企業に固有の制約、導入を見送るべきケースの見分け方までを紹介します。

読み終えるころには、自社が導入すべきかを判断する材料がそろっているでしょう。

AI導入で得られる5つのメリット

AI導入で得られる5つのメリット

AI導入のメリットは大きく5つあります。人手不足の緩和と作業時間の削減に加えて、ミスの抑制やデータ分析の高速化、24時間の顧客対応も見込めます。公的機関の調査でも効果が確認されており、経営会議で示せる根拠がそろいます。

人手不足を補える

AI導入は、人手不足を埋める現実的な手段です。国の推計によると、労働力人口は2022年の6,902万人から2040年には6,002万人へ減ります。経済が伸びず労働参加も今のままなら、18年で900万人が失われる計算です。

採用だけで穴を埋めるのは難しく、企業側もAIへの期待を強めています。国の企業調査では、約75%が生成AIは業務効率化や人員不足の解消につながると答えました。

伝票入力や問い合わせの一次対応を任せれば、少ない人数でも現場が回ります。

出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)「2023年度版 労働力需給の推計」/総務省「令和6年版 情報通信白書 企業向けアンケート」

作業時間と人件費を減らせる

作業時間の削減は、AI導入で最も出やすい効果です。国内1,799社への調査では、AIを導入した企業の91.6%が業務の効率化や迅速化を効果に挙げました。残業が減れば、その分の人件費も下がります。

調査で挙がった主な効果は次のとおりです。

AI導入で得られた効果回答割合
業務が効率化したり迅速化した91.6%
企画提案等の品質や速さが向上した48.9%
残業時間の削減につながった29.2%

残業時間の削減を挙げた企業も3割近くにのぼります。議事録作成や書類の転記など、人が時間を取られてきた作業ほど生産性の伸びが大きくなります。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント」

人的ミスと事故が減る

AIは、人が繰り返してしまうミスや事故を減らす場面でも使われています。転記や照合をAIに任せれば、疲れや思い込みによる入力ミスが起きにくくなります。人は確認と例外対応に集中できます。

労働災害の分野でも動きが出ています。国は令和元年度から令和4年度の建設工事事故 約1,600件をデータベースとして公開しました。すでに一部の建設会社は、労災データや自社の事故データをAIで分析する事故防止アプリを開発しています。

過去の事故を学習させれば、危険が起きやすい場面を事前に洗い出せます。

出典:国土交通省「建設工事事故データベースのデータ公開について」

データ分析の精度と速度が上がる

AI導入で変わるのは、データ分析の精度と速度です。大量の数値を人が目視で追う必要がなくなり、傾向の把握や予測に時間を使えます。分析の回数を増やせるため、打ち手の修正も早くなります。

効果は国の気象予測の現場でも確かめられています。解像度や予報時間の異なる複数の予報結果をAIで組み合わせ、降水量予測の精度を高める成果が出ています。深層学習で全国の気温を推定する技術も生まれました。

深層学習とは、大量のデータから特徴をAI自身が見つけ出す手法です。需要予測や不良品の検知など、企業の現場でも同じ考え方が使われています。

出典:気象庁「気象庁におけるAIの活用」/気象庁「気象観測・予測へのAI技術の活用に向けた共同研究の成果について」

24時間の顧客対応ができる

AIチャットボットを置けば、営業時間の外でも問い合わせに答えられます。ある自治体では1年間で13,364件の質問にAIが回答し、職員の電話対応にすると66,820分にあたる時間を浮かせました。

利用者側の効果も見逃せません。24時間365日いつでも聞けるうえ、1件あたりの所要時間は1分程度に短縮されました。別の自治体では、問い合わせの約48%が閉庁時間帯に集中しています。

夜間や休日の問い合わせを取りこぼさない体制は、顧客満足度を高める土台になります。人は複雑な相談だけを引き受ければ済みます。

出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」

AI導入で起こりうる5つのデメリット

AI導入で起こりうる5つのデメリット

AI導入で問題になりやすい点は5つあります。費用の重さ・情報漏えい・責任の所在・判断根拠の不透明さ・人材不足です。国内企業への調査でもコストとセキュリティは上位の懸念に入ります。

導入と運用にコストがかかる

AI導入の費用は、ツールの購入費だけでは終わりません。国内企業への調査では、生成AIを使ううえでの懸念として「初期コストが掛かる」と「ランニングコストが掛かる」がともに上位に挙がりました。

日本では運用費を挙げた企業が初期費用を上回り、使い続ける負担が重く見られています。費用は大きく2種類に分かれます。

区分主な中身
初期費用ツール導入、社内データの整理、既存システムとの接続
運用費用月額利用料、追加学習、社員研修、効果測定

利用量に応じて課金される従量課金のツールでは、使うほど月額が膨らみます。

出典:総務省「令和7年版 情報通信白書 企業におけるAI利用の現状」

情報漏えいのリスクがある

AIへの入力は、社外のサーバーに情報を渡す行為にあたります。国の個人情報保護の監督機関は、2023年6月に生成AIの利用について注意喚起を出しました。個人情報を含む指示文を入力する際は、決めた利用目的の範囲内かどうかの確認が求められています。

本人の同意なく個人データを含む指示文を入力し、その情報が回答の出力以外の目的で扱われた場合、個人情報保護法に違反する可能性があります。

セキュリティ事故は外部からの攻撃だけで起きるわけではありません。社員が顧客名簿や見積書をそのまま貼り付ける操作も、流出の入口になります。

出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」

責任の所在が不明確になる

AIが誤った出力を出して損害が生じたとき、誰が責任を負うのかは自動的には決まりません。国の指針では、AIに関わる事業者を開発者・提供者・利用者の3つに分け、業務でAIを使う企業は「AI利用者」にあたるとされています。

同じ指針は、責任に関する取り組みとして「責任者の明示」と「関係者間の責任の分配」を挙げています。責任を負う前提を整える作業は、企業側の役割という位置づけです。

社内の担当部署とベンダーの責任範囲があいまいなままだと、不具合が起きた時点で調整に時間がかかります。

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」

判断の過程がブラックボックス化する

生成AIは、大量のデータから確率的にもっともらしい答えを組み立てる仕組みです。そのため、なぜその結論になったのかを人が追いにくく、判断の過程がブラックボックス化します。

国の指針も透明性の項目で、検証可能性の確保と、能力や限界などを開示する取り組みを求めています。説明可能性を高める取り組みも挙げられています。

根拠が見えない状態は、採用選考や与信の判断で問題になります。応募者や取引先から理由を聞かれても答えられず、ハルシネーション(事実にない内容をもっともらしく作る現象)が混じっていても気づけません。

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)概要」

扱える人材が社内にいない

AIを動かす以前に、社内に担い手がいない企業が目立ちます。日本・米国・ドイツの企業を比べた調査では、日本はDX推進人材(デジタル活用を進める社員)の量が不足していると答えた割合が8割を超えました。

3か国の回答は次のとおりです。

国人材の量に関する回答
日本「不足している」が8割超
米国「過不足はない・やや過剰」が約7割
ドイツ「過不足はない・やや過剰」が約5割

調査対象は日本1,535社・米国509社・ドイツ537社です。人材が足りないままツールを入れると、一部の社員しか使えず、投資の回収が遠のきます。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「日本・米国・ドイツ企業のDX推進状況を調査した『DX動向2025』を公開」/独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025」

AI導入のデメリットを抑える3つの対策

AI導入のデメリットを抑える3つの対策

AI導入のデメリットは、運用の工夫で小さくできます。対策の柱は3つです。入力してよい情報を線引きし、人が確認する工程を残し、小さく試して効果を測る進め方になります。

入力してよい情報を線引きする

情報漏えいを防ぐ第一歩は、AIに入力してよい情報を先に決める運用です。判断に迷わないよう、社内の情報を3段階に分けると運用が進みます。

  • 入力禁止: 顧客の氏名や連絡先、未公表の決算数値
  • 条件つきで可: 社名を伏せた議事録、公開済みの資料
  • 自由に入力可: 一般的な文章の下書き、公開情報の要約

線引きを1枚の表にまとめて全社に配ると、現場の迷いが減ります。国のガイドラインでも、生成AIの運用ではルールを決めて文書に残す点が挙げられています。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」

人が確認する工程を残す

AIの出力をそのまま使わない体制が、責任の所在をはっきりさせます。確認の重さは、間違えたときの影響の大きさで変えると現実的です。

用途確認のしかた
社内メモの要約作成者が読み返す
顧客への提案書上長が事実関係を確認
契約や採用の判断人が最終決定し記録を残す

確認した人の名前と日付を残すと、後から経緯をたどれます。監査や取引先への説明でも、記録が支えになります。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン(2024年7月)」

小さく試して効果を測る

全社一斉ではなく、1部署の1業務から始めると失敗の傷が浅く済みます。始める前に、数字で追う目標を決めておくと判断がぶれません。

扱いやすい指標は次の4つです。

  • 対象業務の作業時間(導入前と導入後)
  • 週あたりの利用者数と利用率
  • 月額費用と教育にかかる費用
  • 出力の手直しに要した時間

3か月ほど試し、数字が伸びた業務から広げると、経営会議でも説明しやすくなります。

業種別に見るAI導入のメリットの実例

業種別に見るAI導入のメリットの実例

AI導入のメリットは、業種ごとに見ると具体像がつかめます。製造業の検品や小売の発注予測をはじめ、医療や事務作業でも成果が報告されています。共通するのは、人手では追いつかない作業をAIが引き受ける点です。

4つの業種について、AIが担う作業と実際に確認できた効果を並べると、違いがはっきりします。

業種AIが担う作業確認できた効果
製造業原料や部品の見た目の検査目視検査の負担軽減と検出方式の改善
小売・物流来店客数と発注量の予測食品廃棄ロス18%減、発注作業時間27%減
医療内視鏡画像からの病変検出2020年11月に医療機器として承認
事務・管理部門紙の書類の読み取りと入力6業務で年1,436時間の削減見込み

製造業の検品と品質管理

製造業では、人の目に頼ってきた検品をAIが引き受ける動きが進んでいます。食品メーカーのキユーピーは2019年1月から、グループの惣菜工場でAI検査装置を稼働させています。対象はいちょう切りにしたニンジンの検査工程です。

特徴は、不良品ではなく良品のパターンだけをAIに学習させ、良品以外をすべて不良として弾く方式にあります。不良のサンプルを大量に集めなくても動く点が現場向きです。

目視検査は身体への負担が大きく、装置が代われば作業者は別の工程に回れます。2020年には農林水産大臣賞も受けています。

出典:キユーピー株式会社「AIを活用した原料検査装置をグループに展開」/キユーピー株式会社「AIを活用した原料検査装置が農林水産大臣賞を受賞」

小売・物流の需要予測

小売の現場では、AIが売れる量を予測して発注をつくる使い方が広がっています。スーパーマーケットバローの惣菜部門では、ソフトバンクのAI需要予測サービス「サキミル」による自動発注が始まりました。

AIはPOSデータや商品情報に加え、人流と気象のデータから来店客数を予測し、商品ごとの発注量を示します。2024年1月から5月に31店舗で検証したところ、食品廃棄ロスが18%、発注作業時間が27%減りました。

欠品も19%減り、売上は2.3%伸びました。経験差が出やすい発注業務を、データで底上げできます。

出典:ソフトバンク株式会社「スーパーマーケットバローの惣菜部門で『サキミル』を活用したAI自動発注を開始」/一般財団法人日本気象協会「サキミルを活用したAI自動発注を開始」

医療の画像診断支援

医療では、画像から異常を見つける作業をAIが手伝う仕組みが実用化しています。国立がん研究センターとNECは、大腸の内視鏡画像を解析するAI「WISE VISION」を共同開発しました。

検査中の映像をリアルタイムで解析し、前がん病変(がんになる手前の状態)や早期がんの疑いがある部分を、通知音と円マークで知らせます。学習に使ったのは25万枚の内視鏡画像です。

2020年11月に医療機器として承認され、隆起した病変では95%を検出しました。判断するのは医師で、AIは見落としを減らす目の役割にとどまります。

出典:国立がん研究センター「内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア『WISE VISION 内視鏡画像解析AI』医療機器承認」/日本医療研究開発機構(AMED)「WISE VISION 内視鏡画像解析AI 医療機器承認」

バックオフィスの書類処理

紙の書類を扱う事務作業も、AIの効果が数字で見える領域です。東京都足立区は、総務省の業務改革モデルプロジェクトでAI-OCRとRPAを組み合わせた検証を行いました。AI-OCRは、紙の文字をAIが読み取ってデータ化する仕組みです。

住民税の申告書入力など6つの業務で、年間1,436時間の削減が見込めると試算しています。費用対効果は年間およそ415万円と報告されました。

一方で、検証した10業務のうち4業務では時間の削減効果が出ませんでした。書類の形式がそろう定型業務ほど、成果が出やすいと言えます。

出典:東京都足立区「AI-OCR,RPAを活用した業務自動化の検証を行いました」

中小企業がAI導入で直面しやすいデメリット

中小企業がAI導入で直面しやすいデメリット

中小企業のAI導入は、予算・人手・データの3点で壁にぶつかります。費用を課題とする企業は46.9%、AI人材の不足は38.8%という結果です。従業員100人以下ではデータ利活用率も38.6%にとどまります。

予算が限られる

AI導入で最も多い課題は費用です。「導入にあたっての高コスト」を挙げた中小企業は46.9%で最多となり、毎月かかるランニングコストも44.0%が課題に挙げています。

導入を検討中の企業に絞ると、コストを課題とする割合は61.0%まで上がります。初期費用と月額費用の二重負担が、判断を止める要因になっているようです。

AI導入を阻む主な課題の割合は次のとおりです。

課題全体導入を検討中の企業
導入にあたっての高コスト46.9%61.0%
社内のAIノウハウ不足42.0%59.3%
社内のAI人材不足38.8%53.7%

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(令和8年3月・報告書)」

専任の担当者がいない

AI導入を専門に率いる体制を持つ企業は、ごくわずかです。旗振り役の最多は「IT部門の長」で46.0%、専任者を置く企業は9.8%、AI全体を統括する責任者は2.9%にとどまります。

DXを進める人材の量が足りないと答えた企業は85.5%にのぼります。従業員101〜300人の企業では、戦略立案や現場推進を担う人材の不足が、DXに着手できない主な理由です。

情報システムや総務の担当者が通常業務と兼ねる形になり、試験導入の検証や社内への展開が後回しになりがちです。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」

社内にデータがたまっていない

AIは社内データの量と質で精度が決まりますが、規模が小さいほど蓄積が進んでいません。データを利活用する企業の割合は、従業員1,000人超で75.3%、100人以下では38.6%です。

紙の伝票やExcelの個人管理が残る職場では、AIが読み取れる形にデータが整いません。整備の課題としても「人材の確保が難しい」が51.2%、「データの標準化が難しい」が36.8%と挙がっています。

日報や問い合わせ履歴をデジタルで残す下準備から始まるため、成果が出るまでに時間がかかります。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026(データ集)」

AI導入を見送るべきケースの見分け方

AI導入を見送るべきケースの見分け方

見送る判断が正しい場面は3つあります。解決したい課題を言葉にできていない、人の判断が最後まで欠かせない、手作業のほうが早い少量の業務です。いずれも投資に見合う効果が出にくく、時期を待つ判断に合理性があります。

解決したい課題が言葉になっていない

AI導入を見送ってよい第一の合図は、解決したい課題を一文で言えない状態です。目的が固まらないまま契約すると、使う場面を探す作業から始まってしまいます。

判断の材料は単純です。「どの部署の、どの作業を、月に何時間減らすのか」を数字で書けるかどうかが分かれ目になります。

書けないうちは、どの作業に何時間かかっているかの洗い出しを先に置くべきです。棚卸しが終われば、AIが要るかどうかも自然に見えてきます。

人の判断が最後まで必要な業務

最終判断の責任を人が負う業務は、AIに任せきりにできません。生成AIは事実に基づかない誤った情報をもっともらしく作ることがあり、技術的な対策を重ねても完全には防げないためです。

採用の合否、与信、懲戒処分、安全に関わる判断が代表例です。出力を人が読み直す工数が残るため、作業時間は導入前とほとんど変わらなくなります。

判断そのものを渡すのではなく、下調べや案出しに用途を絞る使い方なら現実的です。

区分具体例線引きの理由
AIに任せやすい議事録の要約、メールの下書き、資料の初稿誤りがあっても担当者がその場で直せる
人が最後まで決める採用の合否、与信、懲戒処分、安全に関わる判断誤りが個人の権利や人命に直結する

出典:総務省「令和6年版 情報通信白書 生成AIが抱える課題」

手作業のほうが早い少量の業務

月に数件しか出てこない業務は、手作業のまま残すほうが早く終わります。AIツールには初期設定と月額費用がかかり、運用ルールの整備や社内への説明も続くためです。

たとえば月5件・1件10分の入力作業なら、削減できるのは年10時間ほどです。導入と運用にかかる手間を考えると、投資は回収できません。

担い手が薄い状態で小さな業務までAI化すると、管理の負担だけが積み上がります。件数の多い業務から順に並べ、上位から検討してください。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025 AI時代のデジタル人材育成」

AI導入のメリット・デメリットに関するよくある質問

AI導入のメリット・デメリットに関するよくある質問

AI導入の判断で迷いやすいのは、損得の見極めと雇用や責任の扱いです。公的な調査を見ると、つまずきの多くは技術ではなく使い方の設計にあります。4つの疑問に、公的データと小さな会社の実情をふまえて答えます。

Q. AI導入はデメリットのほうが大きくなりませんか?

デメリットが上回るかどうかは、使い方を決めてから始めるかで変わります。技術そのものより、使い道の設計が弱いと費用だけが残ります。

判断の目安は次の3点です。

  • 対象業務を1〜2つに絞る
  • 3か月で効果を測る指標を決める
  • 誤りが出たときの確認担当を決める

3点を先に固めた企業ほど、費用対効果を説明しやすくなります。デメリットが大きいと感じる原因の多くは、準備不足にあります。

出典:内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」

Q. AIを導入すると従業員の雇用は減りますか?

今のところ、AI導入がそのまま人員削減につながるとは言い切れません。公的な労働者調査では、AIを使う人の残業時間が「減少した」との回答が「増加した」を上回りました。仕事の成果や学習機会でも、改善したとの回答が多数を占めます。

同じ機関の企業調査では、新しい技術に「人手不足が解消される」と期待する企業が60.5%ありました。人を減らす狙いより、足りない人手を補う目的が先に立っています。

雇用への影響は業務の中身の変化として表れやすく、配置転換や研修の準備が現実的な備えになります。

出典:労働政策研究・研修機構「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査」/労働政策研究・研修機構「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査」

Q. AIが出した誤りの責任は誰が負いますか?

実務では、AIの出力を使って業務を進めた企業が説明を求められます。生成AIには、事実と異なる内容をもっともらしく作るハルシネーションという弱点があります。

国が示すAI活用の指針は、開発者・提供者・利用者の3者それぞれに責任ある取り組みを求めています。最終判断は人が行い、確認の記録を残す形が前提です。

社内では承認者と確認手順を業務ごとに文書で決めておくと、責任の所在がはっきりします。トラブル時の初動も早くなります。

出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」

Q. 小さな会社でもAI導入のメリットはありますか?

小さな会社でも効果は出ます。公的機関の2026年の調査では、中小企業のAI導入率は20.4%でした。導入した業務は総務・管理部門が68.3%と最も多く、種類別では生成AIが82.6%を占めます。

議事録や見積書の作成など、手作業の多い事務から始める形が広がっています。人数が少ない会社ほど、1人あたりの削減時間が経営に効きます。

国の調査では、デジタル化に着手していない企業が2023年の30.8%から2024年に12.5%へ減りました。小さく試す価値は十分にあります。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)」/中小企業庁「2025年版 中小企業白書 デジタル化・DX」

メリットとデメリットを見比べてAI導入を判断しよう

AI導入のメリットは、人手不足の緩和・作業時間の削減・ミスの抑制・分析の高速化・24時間対応の5つです。デメリットはコスト・情報漏えい・責任の所在・ブラックボックス化・人材不足に整理できます。

判断を分けるのは、解決したい課題を数字で言えるかどうかです。入力してよい情報を線引きし、人が確認する工程を残したうえで、1部署の1業務から試してください。効果が出た業務から広げれば、投資は無駄になりません。

当オフィスでは、中小企業のAI導入について、入力してよい情報の線引きや小さく試すPoCの設計まで、業務効率化の第一歩をご支援しています。「何から始めるべきか」の段階からご相談ください。

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柴田 充輝
この記事を書いた人
柴田 充輝合同会社 柴田人事労務オフィス 代表

労働行政に約10年間携わり、ハローワーク等で多くの中小企業の採用・労務の相談に対応。現在は企業型DCの投資教育やお金の福利厚生、採用・人材定着の支援を行うほか、企業メディアで金融・人事労務分野の記事の執筆・監修を多数担当。著書に『中小企業の人材定着の教科書』『社長のための企業型確定拠出年金』『失業保険の教科書』(いずれもKindle版)。

社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/行政書士/宅地建物取引士

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