従業員30〜99人の企業で退職給付制度があるのは70.1%です。3社に2社以上が用意しており、制度がない会社は少数派になりました。
一方で、退職金は一度設けると簡単には下げられません。退職金の減額や廃止は労働条件の不利益変更にあたり、労働契約法は労働者の合意なく変更できないと定めています。創業まもない時期の勢いで高い水準を約束すると、業績が落ちた局面で行き詰まります。
大切なのは、制度の種類を比べる前に、払い続けられる額から逆算する順番です。
本記事では、中小企業の退職金の相場と選べる5つの制度、中退共の加入条件と3つの制約を詳しく解説します。さらに資金繰り・人材戦略・事務負担という判断軸、退職金規程に定める項目、導入後に減額や廃止ができるかまでを紹介します。
中小企業の退職金の実態
退職金制度を新設するか見直すかを決める前に、同じ規模の企業がどこまで制度を持ち、いくら支給しているかを把握しておきます。厚生労働省と東京都の公的統計をもとに、普及率・支給額・採用面での位置づけを整理します。
退職金制度がある企業の割合
退職給付制度がある企業は全体の74.9%です。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査による数値で、常用労働者30人以上の民営企業およそ6,400社を対象としています。平成30年調査の80.5%からは5.6ポイント下がりました。
企業規模別の割合は次のとおりです。
- 1,000人以上:90.1%
- 300〜999人:88.8%
- 100〜299人:84.7%
- 30〜99人:70.1%
従業員30〜99人の企業では、29.5%が制度を持ちません。制度がある企業のうち69.0%は退職一時金制度のみで、年金型より一時金型が主流です。
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況(退職給付制度)」
支給額の相場
大学・大学院卒で定年まで勤めた場合、中小企業の退職一時金は1,100万円台から1,300万円台です。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査から、退職一時金制度のみを設ける企業の支給額を企業規模別に示します。対象は勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者です。
| 企業規模 | 1人平均退職一時金額(大学・大学院卒/管理・事務・技術職) |
|---|---|
| 30〜99人 | 1,162万円 |
| 100〜299人 | 1,295万円 |
| 300〜999人 | 1,618万円 |
| 1,000人以上 | 2,007万円 |
全規模を合わせた平均は1,623万円で、従業員30〜99人の企業とは461万円の開きがあります。東京都産業労働局が従業員10〜299人の都内中小企業に行った令和6年調査でも、大学卒のモデル退職金は定年退職で1,149万5,000円でした。
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 第38表」/東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」
制度がないと採用で不利になるか
退職金制度がないと、待遇を比べる場面で不利に働きます。同じ規模の企業の7割が制度を設けているため、同じ職種の求人が並んだとき、制度の有無は条件の差として表れます。給与が同水準なら、生涯で受け取る額に1,000万円前後の違いが生まれるためです。
ただし制度の有無だけで応募が決まるわけではありません。支給の条件が曖昧なままでは、求人票に金額を示せず訴求力も生まれません。制度を設けるなら、支給する対象と計算の方法まで固めて初めて採用の材料になります。
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」
中小企業が選べる退職金制度5つ
中小企業が使える退職金制度は、社内で準備する退職一時金と、社外に積み立てる共済・企業年金の2系統に分かれます。制度ごとに違うのは、掛金の出どころと運用リスクを負う主体です。5つの違いを表で整理します。
| 制度 | 積立方法 | 掛金の出どころ | 運用リスクを負う主体 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|---|
| 退職一時金制度 | 社内で準備し、社外積立はなし | 会社の手元資金 | 会社 | 支給ルールを自社で細かく決めたい会社 |
| 中退共 | 勤労者退職金共済機構へ社外積立 | 事業主が全額負担 | 機構(会社の追加負担なし) | 事務の手間を抑えて社外に積み立てたい会社 |
| 特退共 | 商工会議所などの団体へ社外積立 | 事業主が全額負担 | 運営団体(会社の追加負担なし) | 地元の団体を通じて小さく始めたい会社 |
| 確定給付企業年金(DB) | 信託会社や生命保険会社へ社外積立 | 事業主 | 会社 | 給付額を従業員に約束したい会社 |
| 企業型確定拠出年金(DC) | 加入者ごとに区分して社外積立 | 事業主(規約によりマッチング拠出も可) | 従業員 | 将来の追加負担を避けたい会社 |
退職一時金制度
退職一時金制度は、会社が社内で資金を準備し、退職時に一括で支払う仕組みです。支給額は勤続年数や役職ポイントなど自社で決めた計算式で算出し、支給の条件や支払いの時期は就業規則や退職金規程に定めます。制度設計の自由度が高く、功労に応じた差をつけやすい点が特徴です。
注意したいのは、資金を社外に積み立てないため、支払いが重なった時期に会社の現金が一気に減る点です。賃金の支払の確保等に関する法律は、自己都合退職を前提とした要支給額の4分の1について保全措置を求めていますが、努力義務にとどまります。
出典:厚生労働省「賃金の支払の確保等に関する法律(退職手当の保全措置関係)の施行について」
中小企業退職金共済(中退共)
中小企業退職金共済は、国がつくった社外積立の制度で、退職金は機構から従業員本人へ直接支払われます。掛金は全額を事業主が負担し、納めた掛金は法人企業では損金、個人企業では必要経費として全額が非課税です。新規に加入する際は国の助成も受けられます。
気をつけたいのは、いったん決めた掛金を下げにくい点です。減額できるのは、従業員本人が同意した場合か、現在の掛金の継続が著しく困難だと厚生労働大臣が認めた場合に限られます。
出典:中小企業退職金共済事業本部「制度の特色」
特定退職金共済(特退共)
特定退職金共済は、商工会議所や商工会などが運営する社外積立の共済制度です。所得税法施行令第73条の要件を満たし、税務署長の承認を受けた団体が実施します。掛金は事業主が全額負担し、東京商工会議所では1口1,000円で最大30口まで加入できます。掛金は全額が損金または必要経費となり、退職金は従業員本人へ支払われます。
見落としやすいのは、運営する団体ごとに掛金の刻みや給付の条件が違う点です。中退共との重複加入は認められますが、ほかの特定退職金共済との併用はできません。加入の前に地元の団体の要項を確かめます。
出典:東京商工会議所「特定退職金共済」
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金は、将来受け取る給付の内容を会社が従業員にあらかじめ約束する年金制度です。年金の資産は会社の外で一括して運用し、あらかじめ定めた算定式で給付額が決まります。実施の形態は、労使が合意した規約を厚生労働大臣が承認する規約型と、別法人の企業年金基金をつくる基金型の2つです。基金型の設立には原則として加入者300人以上が必要で、規約型に加入者数の要件はありません。
注意点は、運用のリスクを事業主が負う点にあります。運用の成績が想定を下回れば、約束した給付を払うために会社が不足分を穴埋めします。
出典:企業年金連合会「確定給付企業年金(DB)」/企業年金連合会「企業年金制度」
企業型確定拠出年金(DC)
企業型確定拠出年金は、会社が拠出した掛金を従業員自身が運用し、その結果で受取額が決まる制度です。掛金は加入者ごとに区分して管理し、掛金と運用益の合計をもとに将来の給付額が決まります。運用商品は運営管理機関が3本から35本を提示し、従業員が組み合わせや配分を途中で変えられます。規約に定めた場合は、従業員が掛金を上乗せするマッチング拠出も選べます。
押さえておきたいのは、積み立てた資産を原則60歳まで受け取れない点です。退職時にすぐ現金を受け取れると考える従業員には、加入前の説明が要ります。
出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
中退共の加入条件と注意しておく点
中退共は国が運営する退職金制度ですが、どの企業でも入れるわけではありません。加入できる規模には業種ごとの基準があり、掛金や退職金の扱いにも独自の決まりがあります。加入の条件と、導入前に押さえておきたい制約を順に確認します。
加入できる企業と従業員の範囲
中退共に加入できるのは、業種ごとの基準を満たす中小企業です。常用従業員数と資本金・出資金のいずれかが基準内であれば加入できます。
業種別の基準は次のとおりです。
| 業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業・建設業など) | 300人以下 | 3億円以下 |
| 卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
| サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
従業員は原則として全員を加入させます。試用期間中の人や期間を定めて雇用される人などは除けます。一方、代表取締役などの役員や個人事業主本人は従業員にあたらず、加入できません。支店長や工場長のように従業員としての実態がある役員は、例外として加入できます。
出典:中小企業退職金共済事業本部「加入の条件」/中小企業退職金共済事業本部「どのような従業員が加入の対象となりますか?」
掛金の額と国の助成
掛金は月額5,000円から30,000円までの16種類から、従業員ごとに決めます。パートタイマーなど短時間労働者は2,000円・3,000円・4,000円の特例掛金も選べます。負担するのは事業主で、従業員には負担させられません。
新規に加入する際は、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)が、加入後4か月目から1年間助成されます。18,000円以下の掛金を増額する場合も、増額分の3分の1が1年間助成の対象です。
出典:中小企業退職金共済事業本部「掛金」/中小企業退職金共済事業本部「国の助成はどのようなものがありますか?」
導入前に知っておく3つの制約
導入の前に押さえたい制約は3つあります。
1つ目は掛金を下げにくい点です。減額には従業員本人の同意か、継続が著しく困難だという厚生労働大臣の認定が要ります。業績が悪化しても会社の判断だけでは下げられません。
2つ目は短期の退職に弱い点です。掛金の納付月数が11か月以下だと退職金は支給されず、12か月以上23か月以下では掛金の総額を下回ります。掛金相当額に届くのは24か月以上からです。
3つ目は支給額を会社が調整できない点です。退職金は従業員本人か遺族へ直接支払われ、規程で定めた額を超えた分も会社は受け取れません。懲戒解雇の場合も、納付月数の条件を満たしていれば支給は行われます。
出典:中小企業退職金共済事業本部「退職金」/中小企業退職金共済事業本部「退職金は事業主(会社)が受け取ることができますか?」
自社に合う制度を選ぶ3つの判断軸
退職金制度は種類ごとに向き不向きがあり、他社の事例をそのまま持ち込んでも自社に合うとは限りません。判断の材料は、資金繰り・人材戦略・事務の手間の3つに整理できます。優先する順番を決めれば、候補は自然に絞り込めます。
3つの軸ごとに、重視する内容と向いている制度を整理しました。
| 判断軸 | 重視する内容 | 向いている制度 |
|---|---|---|
| 資金繰り | 支出を毎月に平準化したい | 中退共/企業型確定拠出年金 |
| 資金繰り | 退職時まで社外に資金を出したくない | 退職一時金(社内準備) |
| 人材戦略 | 長く勤めた人に厚く報いたい | 確定給付企業年金/退職一時金 |
| 人材戦略 | 転職しても持ち運べる形にしたい | 企業型確定拠出年金/中退共 |
| 事務の手間 | 事務を最小限に抑えたい | 中退共 |
| 事務の手間 | 給付設計の自由度を優先したい | 確定給付企業年金/企業型確定拠出年金 |
資金繰りへの影響で選ぶ
支出の波を抑えたい会社には、毎月の掛金として社外に積み立てる方式が向きます。中退共なら従業員ごとに掛金を決めて口座振替で納めるため、毎月の金額が読めて資金の計画を立てやすくなります。全額が事業主の負担になる点は、あらかじめ織り込んでおきます。
社内で積み立てる退職一時金は、支払いが退職時にまとめて発生します。定年が重なる年には、数人分の支出が同じ時期に集中しかねません。手元の資金に余裕が少ない会社ほど、支出を平準化できる方式の利点は大きくなります。
出典:厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度(中退共制度)」
人材戦略で選ぶ
報いたい相手が長期の勤続者か、流動性の高い人材かで選ぶ制度は変わります。勤続年数に応じて給付を積み上げたいなら、給付額をあらかじめ定める確定給付企業年金や自社で設計する退職一時金が候補です。自社の基準を支給額の算定に反映しやすいためです。
転職先へ持ち運べる形を重視するなら、企業型確定拠出年金が向きます。加入者の資格を失っても、6か月以内であれば個人別管理資産をiDeCoや転職先の制度へ移換できます。中退共も掛金の納付月数12か月以上などの条件を満たせば、加入企業の間で通算が可能です。
出典:厚生労働省「離職・転職時等の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)」/中小企業退職金共済事業本部「通算制度」
事務の手間で選ぶ
専任の担当者を置けない会社には、事務が定型化された制度が向きます。中退共は掛金を毎月納付すれば、資産の管理や運用、退職金の支払いまで機構が担う仕組みです。日常の事務は口座振替の確認が中心となり、担当者の負担は軽くなります。
確定給付企業年金は労使で合意した規約に沿って運営し、事業主が積立の義務を負います。企業型確定拠出年金では、運営管理機関とのやり取りに加えて加入者への投資教育が事業主の役割です。給付設計の自由度が高い制度ほど、事務の量も増える関係にあります。
出典:厚生労働省「私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)」
退職金規程に定める項目
退職金制度を設けると決めた後は、内容を文書として固める作業が残ります。労働基準法は、退職手当の定めを置いた会社に就業規則への記載を求めています。規程に書く項目と、支給を制限する定めの考え方を条文に沿って整理します。
就業規則への記載義務
退職金制度を設けるかは会社の判断ですが、設けた場合は労働基準法第89条第3号の2により就業規則への記載が義務となります。同号が求めるのは、適用される労働者の範囲と退職手当の決定・計算・支払の方法、そして支払の時期です。
常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長へ届け出ます。変更した場合の届出も同じ扱いです。作成や変更のときは、過半数の労働者で組織する労働組合、または過半数を代表する者から意見を聴きます。聴いた意見を記した書面は、届出に添える決まりです。作成から届出までの4ステップは就業規則の作成義務は事業場単位|10人の数え方と記載事項で解説しています。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」/厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月版)」
規程に書き込む項目
規程に書く項目は、労働基準法が挙げる範囲・決定方法・計算方法・支払方法・支払時期が土台です。運用で判断に迷わないよう、次の粒度まで具体化します。
- 適用範囲(正社員のみか、パートタイム労働者や有期雇用労働者も含むか)
- 支給要件(勤続何年以上を対象とするか)
- 勤続年数の数え方(休職期間や育児休業期間を算入するか)
- 支給額の計算方法(基本給に勤続年数別の支給率を掛ける方式、ポイント制など)
- 支払方法と支払時期(支給事由の発生日から何か月以内に払うか)
- 受給権者(死亡退職の場合の支払先)
- 外部積立制度を使う場合の扱い
社内に積み立てる会社は、退職手当の支払に充てる額について保全の措置を講じる努力義務を負います。中小企業退職金共済制度などの外部積立を使う場合は対象から外れるため、規程には加入する制度名と支給額との関係を書きます。
出典:e-Gov法令検索「賃金の支払の確保等に関する法律」
支給しない場合や減額する場合の定め
懲戒解雇のときに退職金を支払わない、または減らすには、その事由を規程に書いておく必要があります。就業規則に定めがあれば退職金は労働基準法上の賃金にあたり、定めのない不支給は認められにくくなります。不支給や減額の事由も、労働基準法が挙げる決定及び計算の方法に含まれる事項です。
ただし、定めがあっても全額の不支給が通るとは限りません。小田急電鉄(退職金)事件の東京高等裁判所平成15年12月11日判決は、長年の勤続の功を抹消するほどの重大な背信行為を求め、3割の支給を命じました。
出典:厚生労働省「確かめよう労働条件(退職金不払い)」/大阪労働局「退職金等について」
導入後に減額や廃止ができるか
退職金制度は、一度設けると企業の一存では引き下げられません。退職金の額や計算の方法は労働条件にあたり、引き下げには法律上の制約がかかります。制度設計に入る前に、やめにくさの中身を条文で確かめておきましょう。
労働条件の不利益変更にあたる
退職金の減額や廃止は労働条件の不利益変更にあたり、原則として認められません。労働契約法第9条は、使用者が労働者と合意することなく就業規則を変更し、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更できないと定めています。同条のただし書きは、第10条の場合だけを例外としています。
退職金の支給条件や計算の方法は、就業規則に定める労働条件の一部です。支給率の引き下げや制度の廃止には、従業員一人ひとりの同意が原則として求められます。同意のないまま規程を書き換えると、後日の未払い請求を招きかねません。
出典:e-Gov法令検索「労働契約法」
変更が認められる場合の考え方
例外を定めるのが労働契約法第10条で、二つの要件を求めています。一つは、変更後の就業規則を労働者に周知させることです。もう一つは、就業規則の変更が合理的であることです。
合理性は、条文が挙げる次の事情に照らして判断されます。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
条文に数値の基準はなく、判断は個々の事情に委ねられます。退職金は金額が大きく、不利益の程度も重く見られやすい分野です。
出典:厚生労働省「労働契約ポータルサイト 労働条件の変更」
無理のない水準から始める
引き下げが難しい以上、退職金の水準は低めに設定して始めるのが現実的です。創業まもない時期の業績を基準に高い支給額を約束すると、業績が落ちた局面で行き詰まります。基本の部分は無理なく払える額にとどめ、利益が出た年に上乗せする設計が安全です。
上乗せの手段には、中小企業退職金共済の掛金の引き上げや、運用の結果で受取額が決まる確定拠出年金の追加があります。増額は労働者に有利な変更であり、同意を得やすい点が利点です。減らす方向ではなく増やす方向へ動かせる設計が、制度を長持ちさせます。
中小企業の退職金制度に関するよくある質問
退職金制度の検討では、法律上の義務やパートの扱いなど判断に迷う論点が出てきます。中小企業からの質問が多い4つの疑問を、法令と公的機関の情報にもとづいて整理します。設置の義務から複数制度の併用まで、順に確認できます。
Q. 退職金制度を設ける義務はありますか?
退職金制度に法律上の設置義務はなく、設けるかどうかは各企業の判断に委ねられています。労働基準法にも制度の導入を求める規定はありません。
ただし就業規則や退職金規程に定めた場合は、支払いの義務が生じます。厚生労働省のモデル就業規則も、退職金制度の設置は任意だと解説したうえで、定めを置く場合の記載例を示しています。支給の条件を曖昧にしたまま運用を始めると、退職時のトラブルにつながりやすくなります。
出典:厚生労働省「モデル就業規則について」
Q. パートやアルバイトも対象にする必要がありますか?
パートやアルバイトを対象に含める義務は、法律に定められていません。ただし正社員との待遇差が不合理と判断されない状態は求められます。
パートタイム・有期雇用労働法第8条は、基本給や賞与その他の待遇について、職務の内容や配置の変更の範囲などを考慮して不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。同法第14条第2項は、本人から求めがあった場合に待遇差の内容と理由を説明する義務を課しています。正社員と同額にする義務はないものの、差の根拠を説明できる設計が求められます。
出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」/厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」
Q. 経営者や役員の退職金はどう準備しますか?
経営者や役員は中退共の対象から外れるため、別の枠組みで準備します。中退共の被共済者になれるのは、事業主に雇用されている従業員だけです。
経営者向けには、中小機構が運営する小規模企業共済があります。常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の会社等の役員が加入でき、役員としての登記と事業への従事が要件です。中退共の被共済者は加入できません。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済 加入資格」
Q. 複数の制度を併用できますか?
組み合わせて使える制度はあります。代表的な形は、中退共に加入したうえで会社独自の退職一時金を上乗せする方法です。中退共も、中退共とは別に会社から退職金を支払う場合の請求手続きを案内しています。
対象者ごとに制度を分ける形も選べます。従業員には中退共、経営者や役員には小規模企業共済という組み合わせです。併用する場合は、支給の順番や税務の取り扱いを事前に決めておくと手続きが滞りません。
出典:中小企業退職金共済事業本部「中退共とは別に会社等からも退職金を支払うのですが、どのような手続きをすればいいですか?」/独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済に加入をご検討中の方へ」
払い続けられる額から退職金制度を組み立てよう
退職金制度は、種類を比べるより先に払い続けられる額を決める順番が要点です。減額や廃止には従業員の同意が要るため、後から下げる前提の設計は成り立ちません。
まず自社の従業員数で、毎月いくらまでなら10年払い続けられるかを試算してください。次にその額に合う制度を選び、支給の対象と計算の方法を退職金規程に落とし込みます。上乗せは利益が出た年に検討すれば、制度を長く保てます。
当オフィスでは、退職金の選択肢の一つとして企業型DCの導入を検討する中小企業に向けて、掛金の水準や選択制の採否といった制度設計から、運営管理機関の選定、従業員説明会までを支援しています。「退職金の代わりにDCを検討したい」という段階からお気軽にご相談ください。
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